アンダレー 2021.1.25

【短歌日記】2021年1月2日~24日

1月12日(月・祝)

遅く起きてパンケーキを作る。ホットケーキミックスはない。小麦粉、牛乳、バターと卵。卵をウラーと泡立てる。インディペンデントで働くことは孤独を強いられる。人によっては鬱との戦いでもあるようだ。鬱から私を守っているのは、奇声を上げること。ウラー!

奇声は心を健全に保つと精神科医も指摘している。もちろん口からでまかせだがテンションが上がることは確かだ。テレワークで鬱々としている方は試して欲しい。異国のパンクロッカーのようにワントゥッスリッフォッと一日を始めるのもいい。

正月の花は窓辺でゆっくりと命を終える 朱がまぶしい

1月12日(火)

プロダクトデザイナーに伺った話をまとめる。ラフの写真に写ったそのプロダクトデザイナー(男性)を見た娘が「あれっ、お母さんかと思った」と言う。

金髪めいたショートカット、黒のタートルネックにカジュアルなジャケット、シルバーアクセ重ね着け、存在感のある靴。確かに似ている。名刺交換をした時、お互いの指輪、時計、ブレスレットがあまりに似通っていてすこし笑ってしまった。取材後の雑談で、やはりバイク乗りだとわかる。私も身長が170cmあれば乗りたかった素敵な単車をお持ちだった。

時々こんな生き別れた兄弟みたいな人に会う。私たちは子供の頃に憧れたものを少しずつ手に入れていく。もうお会いする機会はないでしょうがどうぞお元気で。

きみんちは白い矢印あっち側じゃあね、じゃあね、ビュンと別れる

1月13日(水)

本当ならば今頃は、新日本プロレスの”ルチャの祭典”FANTASTICA MANIAの開幕に向けてそわそわしている時期だ。ここ7、8年は毎年、パンフレット等の制作に携わってきたので、ないとポッカリと空白がある。

2011年に初めて見たこの大会で、ミスティコ(カリスティコ)がアベルノをティヘラで投げ飛ばさなければ、その後パンフレットを作ることはなかった。それどころかインタビュアーとしての技量を磨こうとも思わなかったかもしれない。そう思うと感慨深い。

10年を振り返っていたら日付が変わっていた。手元には1万字超の資料ができていた。

人間は時に留まり永らえる 炎に包まれる分岐点

アンダレー

1月14日(木)

アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』を読み終える。2つのミステリが入れ子構造になっておりおおいに興奮した。ミステリは好きだが犯人が分かったことは一度もない。ファンとして理想的ではないか。一生、分からないままでいたい。

小指から順に温もる呼吸してシヌとネムルの境界に居る

1月15日(金)

原稿を書いてスペイン語の勉強をしてピザを作る。4枚作って2枚食べる。ピザ祭り。

『翻訳ラジオ』を聞く。『精神病理学私記』を翻訳した阿部大樹さんは、翻訳には「読まれまいとしている言葉をひらいて読んでいくという喜び」があると語った。すてきな言葉だなあと何度も反芻する。インタビューにも類似の喜びがあります。

明け方の夢のあの人誰だっけメビウスの輪のような湯気立つ

1月16日(土)

『ミッドナイト・ファミリー』を観に渋谷のユーロスペースに赴く。おもろー!(先週レビューを書いた)

午後は友人とお茶して1時間でワインを3杯飲み、いい気分に。下北沢にいるのに吉祥寺にいると思い込み、JRの駅を探した。もちろんなかった。

夜は別の友人の家に少し寄る。迎えに出てきた犬(3匹いるうちの年かさの1匹)をわしわし撫でる。でも3分後に急に「おまえこの家のモンじゃねーな?」って吠えられる。
誰と間違えてたの?

いつの日か一緒に乗ろう音立てて輝く夜を行く救急車

1月17日(日)

『鬼滅の刃』を全巻読む。安心して身を委ねられる骨太構造。なるほど人気が出るわけだ。コミックの枠外にある設定メモもキャラクターへの愛着を感じさせる素晴らしい作品でございました。

煉獄さんかっこいいね! でも20歳なんだってビックリ。プロ野球選手と同様に現役生活は短いのか。だからこそ輝くのか。胸が締め付けられる思いがする。

朝が来て姿を消した囚人の心を探る 光つめたい

1月18日(月)

ちょっと前にTwitterでRTされて来た新聞記事で、高橋源一郎さんが読者の悩み相談をぶった切っていた。長年連れ添った夫が自分に感謝しない、という70代の妻の悩みに対し、乱暴に要約すると「もっと前に本人に伝えるべきだった」「他人を頼るな」「妻も同類」と論理の三段蹴りをかましておられた。

論理的だけど友だちにはなりたくないなハハハ。でも高橋源一郎さんは作家なので必ずしも善きひとである必要はないのだ。

エリック・クラプトンはいい人に見えるけれどクズではないかという疑いを持っております。
ブライアン・メイのことだけは信じております。

満ち潮のようなギターのあたたかさ 宇宙の塵は捲き毛に積もる

1月19日(火)

『パイロットの妻』を一気読み。やはり真相は最後まで分からなかった。ミステリ&人間ドラマで超面白いです。

いつも時短料理だけど、今日は3時間かけてタコスを作る。3種の豚塊肉を低温の脂でゆっくり煮込み、オレンジジュース、スパイス等を加えて更に煮る。トルティーヤも手作り。カッテージチーズも手作り。おいしい。しかし10人前はある。天災レベル。

天災としての存在 飛行機の墜ちた湖面に魚が跳ねる

1月20日(水)

人に言われた嫌なことを思い出し、あいつ~ブッコロ…
さナーイ! と思い直す。

嫌な思い出は底なし沼のようなもの。ここで引き返せば靴の汚れ程度で済むが、いったん足を踏み入れればネガティブな思考に絡め取られて数時間ムダにすることになる。調査報告によると沼の成分は憎悪、復讐心、錯乱、焦燥、自己憐憫、自己嫌悪だという。恐ろしい沼だ。

あたしの愛すべき毎日を犠牲にするなんてごめんだわ。油性マジックの蓋を失くしますように、と呪いをかけてから明るい野原に引き返す。そしてターコイズブルーのセーターにお気に入りの豹柄パーカーを着てウキウキ買い物に行く。派手な服は素晴らしい。着るだけで体温が上がる(気がする)。ニコニコ自撮りしてストーリーに上げる。

そしたら「大阪のオバチャン」と言ってきたオッサンがいた。うるせえブッコロ…
さナーイ!

晴れ渡る空の下でもあの時のおまえの沈む沼の引力

1月21日(木)

紀伊國屋書店の洋書フロアは楽園だ。美しい異国の本の表紙を眺めて周ることは、フィンランドで森林浴をするのと同等の癒やし効果があるというアナリストの指摘もある。それは嘘だが、一見して内容が分からない本が並ぶ様子には、外国旅行と同じときめきを感じる。

いつものみんなだけだと思って鉄仮面でZoomに参加したらよく知らない人の挨拶で始まった。そっと脱いだ。

英国より海を渡ってきた本の表紙を撫でて おやすみ世界

アンダレー

問題の鉄仮面。

1月22日(金)

1日中バリバリ仕事をした。と言いたいところだがバリバリやるほどの量はない。このままコロナだと貧乏になって死ぬのではないか。いや、死にはしない。映像の仕事で稼げなかった頃は新しく開店したカフェのサクラ、歌舞伎町の花屋など、さまざまなアルバイトで生き延びた。
物を書く以外で憧れる仕事は養蜂。いつかチャレンジしたい。

永遠に回り続ける山の手の列車の席で休む蜜蜂

1月23日(土)

インタビューの企画を考えているうちに、いつの間にか頭の中で会話をしている。ご活躍なによりです、コロナの影響はそちらではいかがですか、3年前に伺った際はあのようにおっしゃいましたが、その後、変化は、あ、まだ会う前だしここは自宅の台所だし何なら企画書も書きかけだ。

頭の中で会話するのはいつものこと。これが聞ければ企画として成立する、という基準のようなものがあり、それを満たす質問を用意したのち、脱線していく質問を考えるのが楽しい。

好きなものはなんですか?
嫌いなものはなんですか?
恋人と散歩中にアムールトラに遭遇したらどうしますか?
崖から落ちそうになり助けてくれた友が握った手がほどけそうな時、最後に何を伝えますか?

はじめての孫にあげたいものは何? ロケットカウルのオートバイです

1月23日(土)

日曜日は安息日です。をスペイン語で言うとDomingo es un dia de descansoかな? ちがったEl dia domingo es dia de descansoだった。それに今日はまだ土曜日だった。

とはいえ休日であることは確かだ。有意義なことは何ひとつしないぞという固い決意のもとケネス・ブラナー主演『刑事ヴァランダー』シリーズを観続ける(通称ヴァランダー祭り)。

アメリカの刑事はスーパーマンみたいだけどスウェーデンの刑事は普通の中年男性だ。すこしお腹も出ている。私生活はめちゃくちゃだけど愛情深く頼れる。超人でなくても弱き者は救えるんだね。ちょっと前に観た『刑事ジョン・ルーサー』は超人だったけど。ジョン・ルーサー役のイドリス・エルバが『パシフィック・リム』で演じたペントコスト司令官は人間界のベスト司令官だ。間違いない。しかし超ロボット生命体を含めると残念ながらコンボイ司令官に軍配が上がることになるだろう。ベスト艦長となると『GALACTICA/ギャラクティカ』のウィリアム・アダマ艦長をおいて他にはいないだろう。異論はゆるさんぞ、中尉。

何の話してましたっけ?

安らかに鎧を脱いで外国のスパイになって 無罪放免


ギャラクティカ名場面集が公式で出ていたぞ中尉!!

1月24日(日)

El dia domingo es dia de descanso. 安息日なので何もしない所存です。

謎の多い友人「マッケンさん」から送られて来し短い動画で死ぬほど笑う。
マッケンさんの頭の中にはおもしろい種がぎっしり詰まっていて、笑いが泉のように湧き出てくる。実は歴史に詳しく含蓄のある話も聞かせてくれるのだが、挟まれるおもしろ話の爆風がすごすぎてぜんぶ吹き飛ばされてしまうのであった。それはたぶんいいことだ。

私は長生きしそうなので友人たちを送り出す立場になることをうっすらと覚悟している。でもマッケンさんにだけは私より長生きしてほしい。そして私の葬式でみんなを笑わせてほしい。

三つめの袋はディングディンガ袋 パン、水、ボンゴ、カブトムシ入り


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