2020.12.31
2020年のルチャドール
コロナにもかかわらずCMLLはたくさんいい試合を見せてくれましたね~ありがとうごぜえますだ~という感謝を込めて今年を振り返るYO→
相変わらずスーパースターのカリスティコ、コロナに翻弄されたバンディードとサンソン、テリブレと組んで躍進を狙うアンヘル・デ・オロとニエブラ・ロハ、親子で活躍しそうなエウフォリアとソベラノJr.、You Tube開設したゲレーロ・マヤJr.、キャリア20年でブレイクの予感のラシエルとカンセルベロ。若手ではアトランティスJr.とフライヤーのタッグが活躍し、ライバルのイホ・デル・ビジャノⅢも独特のオーラを放つほかダイアモンド、スペル・アストロJr.、エル・コヨーテなど期待の新人もいっぱいだ!
ピンと来ないけど推されてる選手、推してるけど来ない選手(ブルー・パンテル家の兄弟とか!)もいるので2021も引き続きウォッチメンしていくつもりだ。
AAAも好きな選手はたくさんいる。特に女子はAAAがいい(とはいえ女子は日本がいちばんいいですけどね~)。
ただ軽い気持ちでトリプレマニアを観たところあまりに過激で布団かぶって震えながら寝ました。みんな死なないで。今日は血が出ないルチャのみ紹介します。
■コロナに翻弄されたバンディード
CMLLでも9月末の周年興行「アニベルサリオ」の頃からコロナの影響がバリバリに出始め、ウルティモ・ゲレーロがコロナ罹患で欠場したほか最も翻弄されたのがバンディード。
アニベルサリオという大舞台で、ボラドールとベルトを賭けて試合する予定だった。しかもファン投票で圧倒的な得票数で決定したカードだったが、まさかのコロナ罹患で欠場。
しかもかなり重症だったらしく、自宅療養中にオキシメーターで血中酸素濃度を測るのだけど、95~99%が通常で89を切ると救急車レベルというところバンディードは82まで落ち、「もう死ぬんだ…」と本気で思ったそう。
復帰後の試合ではカリスティコとタッグを組み勝利。試合後は「みんなありがとう!リングに戻れたこと、僕の命が終わらなかったこと、そして憧れのカリスティコと組んで勝てたこと、本当に特別な夜だよ!」と喜びを爆発させた(画像はバンディードのインスタグラムより)。
カリスティコについては
noteに記事を書いたので読んでね。
さて、ボラドールJr.との王座戦は12月25日に改めて組まれたものの、メキシコでも緊急事態宣言が発令されまたしても中止に。コロナに負けるなバンディード。
■CMLLアンダーワールド王座を逃したサンソン
11月の「死者の日」前後にだけ開催する「アンダーワールド王座戦」では4年前の創設以来、3年連続で優勝してきた絶対王者サンソン。しかし2020はコロナ罹患により欠場。無症状だったようだが、弟クアトレロは既にシングル王座を持っているだけに兄として痛い欠場だ。
ただでさえサンソンは長子らしい気遣いの男。たとえば情報番組「インフォルマ」にチームで出演すると、ことごとく弟や従兄弟に発言を譲り、司会者がサンソンに喋らせようと長々と質問をしても「そうですね」の一言で終わらせる欲のなさ。
そして試合では率先してガンガン行く。まるでチームメイトを守るかのように。リーダーかくあるべし的な男ナンバーワン2020。
そんなサンソンの素晴らしさについてはnoteで「+Lucha」でのインタビューを翻訳しておいた。読んでくれ。
インスタグラムでは父シエンカラスが所有するランチョ(農場)での写真もたくさん。牧童っぽくてイカスぜ。そしてこんな柄のシャツを着こなせるのはプロ野球選手かサンソンだけだよ(画像はサンソンのインスタグラムより)。
ゆったりした語り口は音楽的な響きすらある。寝る前に聞けばいい夢が見られそうだ。↓この日のインフォルマにも出ているよ。
■CMLLアンダーワールド王座に就いたテリブレ
サンソンが取るはずだったアンダーワールド王座2020を見事獲得したのはテリブレ。リングネームの由来はお父さん(か神父さん)に「お前はなんてひどい(Terrible)やつだ」と言われたことだとか。試合ではその名の通り豪快な平手一発で全てをなぎ倒すパワー系ルード。
ヘビー級ベルトを3年間保有してきたが、夏にディアマンテ・アスールについに明け渡し、その際には「お前みたいな若いやつに倒される日を待ってたよ」などと耳元で語ったという地獄のイケオジ。
秋には116kgから90kgまで一気に26kg減量(糖質抜きプロテインダイエット)し、ダンディな色気が爆発。「体作りはアスリートなら当然だよヌハハ」とおっしゃっていた。
一方で、エプロンしてスイーツを作るクッキング動画を上げたり(画像はテリブレのフェイスブックより)、グッズ写真に愛らしい小型犬が写り込んでいたり、いちいち心を掴むアイテムをSNSで出してくる。キャリア22年選手ながらSNS遣いにも長けているといえよう。
言葉遣いにも長けたテリブレは、語り部としても素晴らしい。キャリアが長いだけに伝説的な選手との邂逅も多く、インタビューはいつも貴重なエピソードで雪崩が起きそうなほど面白い。テリブレの助言に救われたという若手選手の証言も増えてきた。いつか翻訳してお届けしたい。
■悪い子になったチャベス兄弟(アンヘル・デ・オロ&ニエブラ・ロハ)
品行方正だったチャベス兄弟が、なんと悪のテリブレと結託し、さらなる躍進を狙っている。とくにアンヘル・デ・オロはインフォルマで「ネットの向こうのお前らは黙って見とけ」と不遜なコメントを連発。加えて「俺たちはダンサーでもストリッパーでもない」と、誹謗中傷に耐えてきた日々を思わせるコメントも。好感度は捨て去って「勝利がすべて」というスタンスへの戦略変更は、彼らの実力を思うと非常に頼もしく期待感が暴発しそうだ。
その言葉どおり「レジェンダ・アスル」でオロは出場選手の中では最軽量と思われるが(テリブレのアシストを得て)優勝を果たした。優勝盾は「3人で獲得したものだから」と、オロの家で飾ったのち、兄のニエブラ・ロハの家に。その後はテリブレの家に飾る予定だと言ってましたね。善悪の壁を越えた友情が尊い。
フェイスブックライブには父アポロ・チャベスも出演。 「私は現役時代、北部を中心に活動する地方レベルの選手だったが、息子二人が大きな舞台で活躍しているのは非常に誇らしい。しかし可愛かったアンヘリートがテリブレと組んで悪さをするなんて…母さんになんて説明したらいいのか…」(チャベス氏)
その時のアンヘル・デ・オロの「てへ」顔はファンのみなさんは拝んでおくべきかと思いますね。
■本気出しそうだったエウフォリアと肉体改造したソベラノJr.
エウフォリアは前回のブログで書いた通り期待感満載でしたが元サヤです。必殺技ソベラーナを出さないまま終わった試合には何かしら思うところはあるわけですがワハハ!しかし強い!中年の星!
息子のソベラノJr.はコロナ自粛期間を肉体改造に充て、77kgから80キロ代後半までビルドアップしたそう。秋のティタンとの王座戦もストロングスタイルとルチャを融合させた素晴らしい戦いだったし、インタビューでは飯伏幸太の名前を挙げるなどし、新日本プロレス参戦をバリバリ意識している。2018年11月のインタビューで自身のキャリアを振り返っていたのでnoteで翻訳してるのでぜひに。
■常にマイペースのゲレーロ・マヤJr.
FM2020で久しぶりに来日し、和装で入場するなどして印象を残したゲレマヤさん、今年はYou Tubeチャンネルを開設。編集のクオリティがめちゃ高いけど誰かやってくれてるのかな。数少ない大卒ルチャドール。番組でも栄養学について延々と説明したり知性が爆発してます。noteにもインタビュー動画の翻訳記事を書いたのでぜひ。
■中年の逆襲!ラシエル&カンセルベロ
ファン投票で対戦カードを決めた今年のアニベルサリオで、圧倒的な人気を証明したのがラシエルとカンセルベロ。ヴィールス率いる「カンセルベロス」として活躍するルードで、いずれも20年以上のキャリアを持つ選手。このカンセルベロスにはエウフォリアやポルボラも一時期所属していましたね。悪の老舗ユニットです。
この二人は息ピッタリでタッグプレーが素晴らしい。アニベルサリオではディナミタとトリオのベルトを賭けての悪者対決。負けはしたものの持ち味は全部炸裂させた。人間ピタゴラ装置のような合体技も含め、何度でも見たい試合だ。
とくにカンセルベロ(上の画像左端の大男)は喋りがいい。軽やかでかつ堂々とした語り口、吹き替えはミルクボーイでお願いしたい。緊張しないタイプなのか、情報番組「インフォルマ」に出てもいつもどおり。ルチャが大好きなおばあちゃん(グロリアさん・93歳)に画面から「おばあちゃ~ん」と手を振っておられた。
カンセルベロはセミ・コンプレート以上の重量級選手が出る大会「レジェンダ・アスル」にもエントリー。キャリア20年にして初出場を果たす喜びコメントが「いや~、考えてみてもくださいよ、こんな素晴らしいトーナメントに出られる喜びを!」とエモいので下記に訳しておく。
「長年ルチャをやってきて、『いつか出られたらいいな』とこんな機会を夢見てからずいぶん長い時間が過ぎましたけど…でもチャンスってやつは来るべき時に来るんだと思うし、やっと来たそのチャンスを無駄にする気は全然ないっすよ! みんなが出場したがる大会で、みんなが勝利を目指している。俺は俺で勝つために100%以上のチカラを出してくよ!
でもね正直、勝つのは難しいことだって分かってますよ。でも、どんなことも難しいモンだし、それって同時に、どんなことも不可能じゃないってことですよね? まあとにかく前を向いてやるしかないぜえ!
いや~それにしてもみんなデカいし巧いしレジェンド級に有名だったりすごい競争相手ばっかりだなあ~! これについてはなんて言ったらいいんだろ、でもさ、何か面白いことが起きればいいよね? すっごい激突とかさ?
まあ何が起きても誰が相手でもやってやるぜぃ! ルチャをやるからには、目標はいつだって勝利だからさ!」
その言葉通り、約100キロの巨体で場外へのトペも繰り出す大盤振る舞いで、古くからのファンは大歓喜したことでしょう。カンセルベロにはまじで注目!
■アトランティスJr.&フライヤーがタッグベルトを獲得
さてここからは若手の選手に注目。
復活したメキシコナショナルタッグ王座を獲得したこの二人は、ルチャ・ファミリー出身のこの世代で筆頭の活躍ぶり(画像はフライヤーのインスタグラムより。アトランティスJr.のインスタグラムにはパパも時々登場するよ)。
父親のスタイルを引き継いだアトランティスJr.はクラシックな戦い方がよく、パパより背が高くヒーロー感も存分にある。マントが似合う若者なんてそういませんよ。色白で、かつルチャドールらしい体型というのも貢献しているかと。バキバキのハイブリッドボディじゃ逆にこの雰囲気は醸せない。
インタビューでも自然に淀みなく喋るあたり、育ちのよさというか、選ばれし若者なんだなと感じさせる。
一方でフライヤーは試合はすごいのにトークがからきしの模様で、二人で情報番組「インフォルマ」に出演した際は、フライヤーのマイクを持つ手はずっと震えていた。試合後のコメントは饒舌なのにギャップがすごい。いや、喋れる必要は全然ない。むしろそのままでいい。応援するぞ!
■イホ・デル・ビジャノ・テルセーラはナチュラルボーン悪!
ビジャノⅢの息子さん。父親同士はマスカラ戦を戦った因縁のあるアトランティスJr.との対戦ではより映えます。全身から不審なエネルギーを発している。こら、『ナチョ・リブレ』の”ヤセ”みたいな体型とか言うんじゃない。彼は身長180オーバーだからガリガリに見えるだけ!ちょっと骨ばってるだけ!言い方考えて!
ただ、動きがものすごくいいのご存知です? 試合の流れをすごく読んでるっていうか、子供の頃から山ほど観てきたんだろうなっていうルチャ理解度の高さなんですよ。やはり才能ですかね。それでいてあの雰囲気。無鉄砲な悪者、チンピラ感、狂犬っぽさ…すべて褒め言葉です。悪役とはかくあるべき。表現力は若手でピカイチ。そしてトークを聞いてくださいよ、この謎の大物感。まだ20歳をようやく越えたぐらいですよ。期待せざるを得ない。
■実はおしゃれなダイアモンド
もっさりした、いや、これは言い方がよくない、伝統を重視した感のあるマスクデザインで、どうも若手の輝きはあまり出てこないマスクデザイン。でもある日、トップが開いたタイプのマスクを被って出てきた日は若さが輝いていた。プラチナブロンドのブレイズヘアーで、かなり美意識は高い模様。あのもっさりマスクは会社の意向なんですか?いや、これも言い方よくない。
必殺技は「ブリージョ・ダイアモンド」。マスカラ・ドラダが使っていたブリージョ・ドラドはセカンドロープを経由して飛びますけど(高さ重視)、ブリージョ・ダイアモンドはダイレクトなんでスピードが凄いですね。この説明だと日本で3人ぐらいにしか伝わらなさそうだ。分かった人はリプライなどください、友よ。
■時代を越えて蘇るスペル・アストロ・ジュニア
父親のクラシックなムーブに若者らしい無鉄砲さが加わり爆発寸前の新人。入場曲もスターウォーズのテーマですよ。著作権の問題から配信で聴くのはまあ難しいだろうけど、やっぱあの曲で荘厳に入場していいのはSUPER ASTROという名を持つ者だけですよね~楽しみですね~
■悪の謎ジャベ使いエル・コヨーテ
ファー付きマスクが珍しいルード。乗ってくると「ワオーン」とコヨーテの遠吠えをかます。若手テクニコと対戦してるけど、技の渋さと習熟度から言ってなかなかのキャリアの重みを感じさせる。かつて新日本プロレスの実況では「メキシカンストレッチ」と片付けられた、というかそう言うしかなかった複雑な関節技を数多く駆使する。こういう「謎ジャベ」の使い手がいてこそルチャですよ。若手のカテゴリにこういう謎ジャベ使いがいるのは、やっぱりルチャの奥深さですよね。
タマウリパス出身で、メキシコシティに“上京”してしばらくは路上生活を送ったことも。なかなかの苦労人である。
きりがないのでこのへんで。2021もルチャをウォッチメンしていきたいと思います。みなさま長寿と繁栄を。
2020.12.31 明知真理子
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