熱烈に(一部で)ブーム襲来 『コララインとボタンの魔女』 この想像力、スバラしい! 原作では描かれないディティールがこんな風にカタチになるとは。日本人イラストレーターの上杉忠弘氏がキャラデザインを手がけたそうだが、アニメ界のアカデミー賞と言われるアニー賞、納得の受賞。 ネズミサーカスの愛らしくエキセントリックな全貌。「もう一人のパパ」のアーティスティックで情熱的な魅力。部屋に置いてあるおもちゃのひとつひとつも素通りできない作りこみ方だ。
コララインのために魔女が用意した楽園は、こりゃ現実よりスキになるよって説得力満タンの桃源郷だ。 そして「元女優」の老婆たちや「ミスターB」など、近隣住民の悪趣味極まりないキャラ作りは、原作の枠にとらわれないフリーダムな輝き。原作の「もう一人のママ」はもっと静かでまがまがしくコワいが、こんくらいコワければ十分だ。 アニメといって侮るなかれ。もうコレはアート。 |
コララインへの愛ゆえに振るわれる魔女の暴力には、身のすくむ思い。人は求めるとき、暴力的になることもある。身に覚えがあるのは私だけではないはずだ…。
さて、ダーク・ファンタジーという聞きなれないジャンルで知られる(知られない)原作者のニール・ゲイマン。作家であると同時に、『サンドマン』をはじめとするアメコミ原作者でもあり、あの“バットマンを殺した男(最終回を執筆)”としても有名。存命の作家の中でいちばんイケメン(当社調べ)。
彼の作品では、当たり前のように超常現象が起こる。それを夢オチで片付けず、まるでノンフィクションであるかのように語るため「まったく事実は小説より奇なりとは本当だなあ!」という読後感すら生まれる。 さて、この「当たり前のように起こる超常現象」は、ファンタジー小説を読まない方にとってはハードルが高いのではないだろうか。たとえばカンフー映画で、ファイティングポーズのままの空中横移動を目撃したとたん、ストーリーを追う気をそがれるように。 |
その点をカバーしているのが、原作には出てこない少年ワイボーン。超常現象と一般常識との橋渡し的に、内気ながらもイイ仕事。これでゲイマン・ワールドやSFを知らない人でも楽しめる。間口を拡げるという意味でもこの作品、素晴らしい出来だ。
さて、原作の方にも、映画には盛り込め切れなかったステキな世界観がたくさんある。コララインは映画ほどひねくれてなく、もっと孤独で気高く強く、ハードボイルドと呼んでいいほど。小さな彼女が、華奢な体の中から勇気と覚悟とチカラを絞り出すさまは、何度読み返しても胸にしみる。子供の幽霊たちも、この世界にかろうじてつなぎとめられている希薄な存在として描かれ、悲しいほどの不在感。映画でも使用された「大丈夫、君はまだ死んでない」というセリフも、原作を読めば、切実な重みと真心を感じるだろう。
また、独特で情緒あふれる情景描写の言い回しも、魅力のひとつ。日常の何気ないひとコマも、彼の言葉で魔法がかかる。自分の日常に当てはめると生活するのが楽しくなるよ。ぜひ手にとってみていただきたい。 |