LA UNDERGROUND 

LUCHA UNDERGROUNDの聖地へ

『ルチャ・アンダーグラウンド』をご存知だろうか。2014年に始まったアメリカのプロレス番組で、放送しているエル・レイ・ネットワークはあのロバート・ロドリゲスが設立した局だけあり、ドラマ仕立てのその番組は退廃的な映像美で雰囲気はバツグン。謎の富豪「ダリオ・クエト」氏の薄暗い闘技場=通称”テンプル”に、アメリカやメキシコから実力派のレスラーが参戦し超オモロイのである。

その試合を収録するテンプルがLAにあるという。つまり聖地。これは行かねばなりますまい。

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 場所を調べると、中心地から南東の方角の「川向こう」。治安が心配だ。それにどうやら公共交通機関では行けないようだ。出来る限り近くまでバスで行って歩くほかあるまい。

 バス停は寂れていた。待てども待てども目的地行きのバスが来ない。そのうちベンチに置かれた宗教勧誘のチラシを握りしめるほど心細さはピークになった。仕方なく来たバスに乗る。

 目的地のはるか手前でバスを降り、歩き始める。暑いし荷物が重い。「ちょっと買い物してうちまで帰るとこ〜♪」な雰囲気を出すためわざわざ本屋で買い物をしたのだ(3冊)。あたしは石橋は叩いて壊す主義です。

 手のひらの方位磁針を盗み見ながら南東の川を目指し、橋の上の見晴らしの良い場所で目視。あとは迷いないフリをしながら行くだけだ。
 地図を見るのは避けたい。だってこちらは一人旅。旅行者とバレたら何が起こるか分からない。

 観光客目当ての商売人にカモられるかも(既にチャイニーズ・シアター前でスパイダーマンに20ドル巻き上げられている)。それならまだいいが強盗に目をつけられたらどうしよう。この一眼レフを奪われたら仕事に支障が…。

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 いや、それもまだマシな方だ。捕らえられ知らない国に売られてしまうかもしれない。

 案ずるな。ジェット・リーのカンフー映画はほぼすべて見ている私だ。睡眠学習と同じ要領で、いつの間にかかなりの使い手になっているはず…!

 よし、正面から襲ってくる敵、まずは左の前蹴りで距離を取り、すぐさま踏み込んで右のミドルキックを叩き込みすかさず無影脚。そのまま振り返りざまに後ろの敵に砂で目潰し。あとは落ちている木の棒を拾って…なにぃーッ銃だとぉーッ!? ノー・ガン! ノー・ガン・プリーズ(妄想)!


 怖い想像をしているうちに、確実に道を間違えているぞ。やはり1本手前を曲がるべきだった。

 寂しげな人気のない建物が並ぶ倉庫街はまるでゾンビ横丁。割れた窓ガラスの暗闇から人間じゃない何者かがこちらをじっと見ている。

 走ってはいけない。奴らは動くものを感知しているのだ。噛まれたら24時間で発症、帰りの飛行機には乗れず肉体が朽ちるまでこの街をさまようことになるだろう。サヨナラミナサン。パソコンの履歴のルチャ動画の多さを知った時、家族はなんと思うだろうか…。断じて生きて帰らねばならん!

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 怖い妄想で頭がいっぱいになってきたとき、ルチャ・スカウターに反応が…! あるぞ、近くにルチャっぽいものが!

 そして唐突に現れたルチャのポスター。
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ここだ。

ここだー!!

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 どう見てもただの倉庫。

 中ではガタンゴトンと大きな音がする。入り口の警備員さんに聞くと、アパレル系の撮影をしているそうだ。ルチャの撮影もするところでしょと聞いたら「そうなの? そんなのも撮ってるのココ?」ぐらいの反応。

 ですよね。収録場所ってだけで、しかもシーズンの合間で収録はないし、つまりただの倉庫だ。こいつぁまだマイケルジャクソンの墓参りをした方がLAらしかったのでは…。

 いやしかし! 耳をすませば私には聞こえる! リングに鳴り響く「LUCHA! LUCHA!」というあの歓声。コーナーから飛ぶプーマ・キングの汗、解説のバンピーロのツバの飛沫…このセクシーな香りはジョニー・ムンドのムスクね! やっぱり来てよかった!

 ムスクの香りの警備員さんが帰り道をスマホで教えてくれたけど来た道より怖かったよ。ノー浮浪者プリーズ。
 さんざん歩いて外国の倉庫を見てきただけというこの現実とどう向き合えばいいのか。 そんな私の心のケアはまだだが、行きたい方は下記の住所です。がんばれ。
Lucha Underground Arena
516 S Anderson St Los Angeles, CA90033

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ではまたらいシュー。


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