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まずは手近なバスに走った。同じ模様のバスなら乗務員が情報を持っているはずだ。俗にいうドラクエ方式である。私は遠くジパングからはるばる訪れし善良な旅行者ですが携帯を失くしたので助けてください!
アフロの運転手さん(サミュエルエルエルジャクソン似)はしばし悩んだのち、遠方より聞こえる雷のようなくぐもった声で言った。
「メトロ・センターかな。そこに忘れ物は集まるハズだ。きっと。たぶん。かもしれん。ウォーシューヴォーマンにある」
メトロ・センター。LA中の賢者が知を持ち寄り研鑽する地に違いない。分かった行ってみる!
でもウォーシューヴォーマンってどこ? どのバスに乗ればいい?
「そりゃウォーシューのバスさ」
「ウォーシュー?」
「そう、ウォーシュー」
「ごめん書いて」
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かくしてウォーシュー(ウィルシャイア)通りのヴォーマン(バーモント)という停留所を目指して、新たなバスに乗ったのであった。
「快速に乗らないとマジで遠いぞ」という教え通りラピッドのバスを選び、ウォーシューヴォーマンで降りるから教えてと乗り手には要請済みだ。
車窓を流れ行くのは西海岸らしい優雅な建物、南国風の木々、笑い合う人々。なんと平和な王国だ。対して我が心象風景は呪いの森に迷い込んだよう。一歩ずつ体力を奪われていく。何しろ携帯がないのだ。はぐれメタルに遭遇して野垂れ死ぬのも時間の問題だろう。さよならみなさん。こんなことなら冷凍庫に残したハーゲンダッツを食べておけばよかった。
「善良な旅行者ですけどもう着いた?」「ま〜だ〜ちゃんと覚えてるから! 言うから!」というやりとりを何度か経てたどり着いたウォーシューヴォーマンは、巨大な交差点だった。「信号を渡って右がメトロ・センター」と言っていたが、建物だらけじゃないか。
だが案ずるな。私にはドラクエ方式がある。
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