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マジカル☆サンディエゴ

 サンディエゴ滞在は20時間に満たない。しかしとある出会いにより、街の魅力をすみずみまで満喫しちゃうことになるのです。

 午前中はメキシコのティファナで過ごし、歩いてアメリカに帰国。国境から路面電車でダウンタウンに着くと正午を回っていた。

 特に何を見るかは決めていない。駅のツアーインフォメーションの老紳士に聞くと「ミッション・ビーチがオススメであろうぞ」とのこと。的確過ぎる交通指南でスムーズに海に。翌日は早朝のフライトでラスベガスに行くため、空港で夜を明かすつもりで夜までビーチで過ごし、最終一本前のバスでサンディエゴ国際空港に着いた。

 まずはカフェで甘くて冷たい飲み物と思ったが、サンディエゴ空港の店じまいは思いのほか早かったようでどこも閉店。照明も暗くなりポツーンと立ち尽くしていたら、背の高い空港職員がゆっくりと近づいてくる。
 ですよね、ガイコツ&ヘビの不良柄Tシャツにドクロのキャップ、ウエスタンブーツに大荷物で無人のロビーに立ち尽くしていたら、ちょっとした不審者ですよね。

「どうかなさいましたか?」

 いえ、あのあのあのお店がもっと開いてると思ったんですけど、えっと朝イチのフライトで…
 ああ、その窓口なら一度外に出ないと。コチラですよと歩き出す。

 足の長さの差により小走りになる私を見て彼は歩調をゆるめ、どちらからいらしたんです? と聞く。東京からだと答えると、いいところですね、実は私も一度行ったことがあるんですと口調が柔らかくなる。でもアニメやゲームは殆ど知らないという彼に、じゃあどうして日本にと聞くと、少し考えて彼は言った。

「だって、マジカルじゃない?」

 彼の言葉に、まるで妖精のゴッドマザーが杖をキラリと振ったように、劣悪な労働環境と狭隘な住宅環境を誇るホームタウンがキラキラとマジカルな国に姿を変えていく。ビル街に昇る朝日の清々しさ、コンクリートの隙間からすくすく育つ草木の魔法の生命力。
 そうなんです、私、とっても素敵な国から来たマジカルレデイなんです。

 清澄公園や神戸の夜景の話をしながらちょっとした距離を歩き、目的の航空会社の窓口に着いた。お礼を述べると、彼はロビーで寝ている先客バックパッカーに目をやってあんな風に待つのかと心配そうに言い、もしよければと控えめに切り出した。

「本当にもしよければだけど、もうすぐ仕事が終わるからドライブに連れて行こうか? もし万が一あなたが行きたければ、だけど」

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 かくして私は予告時刻にやってきた赤いトラックによじ登り、サンディエゴの海沿いを走り抜けて高台からの夜景にうっとりし、サタデーナイトのダウンタウンにドキドキし、深夜営業のおいしいメキシコ料理をごちそうになり、幻想的にライトアップされた深夜のバルボア・パークではしゃぎ、サンセット・クリフと呼ばれる断崖絶壁でビュービューと風に吹かれ…と、朝方までにサンディエゴ主要スポットをマジカルに観光できたのでした。

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   実はマジカルな出来事は、昼間にもあったのです。

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 その日、遅めの昼食をとったのは、オーナーはタトゥー入れすぎキアヌ・リーヴス、巨大バーガーを運ぶシェフはドン・フライ、キャメロン・ディアスがソーダのおかわりを注いでくれるというアメリカーンなバーガー屋。

 バックパックを担ぐことに飽いだ私はどこか預ける場所がないかキャメロン尋ねるも、ビーチにそんなロッカーはなく、人通りも多いから荷物を手元から離すのはオススメできないという。

 しょうがないと覚悟を決めて歩き始めると、キャメロンが走って追いかけてきた。

「やっぱアタシが見ててあげるぅー☆夜までいるから♪」

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 楽しんできてぇー☆とキャメロンは細腕で、でも力強く重たいリュックを持っていった。下手すれば恋でも生まれそうなロマコメ展開に感謝しつつ、おかげで水着でビーチにゆったり寝転び、沈む夕陽にうっかり涙ぐんだりできたのでした。

 あとで聞くとおじいさんが日本で生まれたとのこと。世界に散らばった日本人の善行のおすそ分けにあやかった気分。

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 世界は個人の集合体なのだと改めて思う。人の優しい言葉が優しい人を作り、そんな人が集まって国を作っている。個人のたったひとつの善行が、まるでオセロの駒が裏返るように世界を善きものに変えていくような白昼夢を一瞬みた。

 さて、話を空港に戻すと、彼は目の下にクマを作りながら空港まで送ってくれたほかいろいろ世話を焼いてくれ、後日「職場との行き帰りの街が僕にとっても素晴らしいものに思えました」などていねいなメールまでくれた。

 日本の好きなところは「人がいいところ」と言っていた彼は、きっと日本旅行の際に、どなたかに熱烈に親切にされたんですね。サンディエゴで世話になったふたりには何のお礼もできなかったけど、いずれ、別の誰かにお返しします。

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 さあ無事に次の目的地、ラスベガスへ…のハズがなぜかサーンフラーンシスコーに行ってしまったのですが、それはまた別のお話。

ではまたらいシュー。


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