The Last Bookstore 

本の表紙から出るマイナスイオンを浴びることで労働意欲ならびに自然治癒力が180%アップするというアナリストの指摘も…

まあ、そんなものはあるわけないが、アメリカ旅行の目的の一つは好きな作家の未邦訳本を買うことで、本屋をみるたび寄った。日本でも本屋って、店員さんも感じがいいし、好きな本を手にとって選べるし、大好きなんだけど、アメリカでも同じだったよ。感じのいい店員さんばっかり。癒やしの書店体験でパワーチャージし、長い一人旅を無事に過ごしたのであった。

もうこれはアミューズメント
THE LAST BOOKSTORE

重々しい古い建物の中にその本屋はあった。

The Last Bookstore 入り口で大きな荷物は預けることになっているようだ。

 見上げるような体躯の店員にバックパックを差し出す。夏なのに黒いニットキャップ、黒いTシャツに黒いジーンズ、手首まである程よく色あせたタトゥー。映画に出るとしたら窓ガラスを割って突入する役を与えられるだろう。

The Last Bookstore

 店内の随所に置かれたソファーにはカップルが並んで腰を掛けて本を選んでいる。大きなフロアの隣には小部屋があり、こちらでは希少本やアート系古書を販売しているようだ。
 カウンターで探している本を告げると、赤毛のカーリーヘアにソバカス、緑の柄シャツの華奢な男性店員がすぐに検索してくれた。

「2階のSFコーナーにあるから探してみてねー。あのへんだよー」

The Last Bookstore

 指差す先にはなんとなく薄暗い一角があった。
 いかがわしいオブジェの横を抜けて2階へ。広い吹き抜けを取り囲む2階フロアには、書店だけでなく雑貨屋やギャラリーなど店子も入っている。売り場はジャンル別にコーナー分けされ、新刊も中古も一緒に並んでいるようだ。

The Last Bookstore  The Last Bookstore  The Last Bookstore

 書架を縫うようにオブジェが並び、ちょっとした迷路。この膨大な中から探せるのか…と危ぶむも、一見雑多だが実はABC順に整然と並べられており、中古CD屋を漁った経験がある者ならすぐにコツは掴めるはず。  むむっこれはテリー・プラチェットの未邦訳本! おっとこっちは…とアリ地獄にハマらないよう心を強く持つ。

The Last Bookstore The Last Bookstore  ちなみにSFコーナーの奥には独房のような小部屋があり「CRIME,LAW,HORROR & WEIRDNESS」コーナーと銘打たれていた。なんか変なものはここにありそうね。

 ここで購入したのはNeil Gaimanの『Trigger Warning』と『ネバーウエア』(書下ろし付き新装版)。…だけでイイはずが既に持っている『壊れやすいもの』『グッド・オーメンズ』ほかオリジナルトート&Tシャツも買ってしまった。本屋マジック。

The Last Bookstore  地上最後の楽園といった趣の本屋で好きな本の表紙から存分にパワーを吸収し、元気いっぱいで旅を続けたのであった。

 ところで探しているもう1冊、ギレルモ・デル・トロの『トロール・ハンターズ』(ダニエル・クラウスとの共著)は在庫がないとのこと。ゲイマンとデル・トロの知名度は同じぐらいかと思っていたけれど、店員さんによるとゲイマンは「超有名作家」だが、デル・トロは「なんかアニメ系の人だよね?」的な反応であった。
 仕方ない、次の本屋に行こう。

品揃え万全の大手
BARNES & NOBLE

 ひとつの街のような巨大なモール内に、その書店は城のように建っていた。

BARNES & NOBLE

BARNES & NOBLE

 旅の前から目星を付けていたチェーン系書店(小売店からは敵とみなされているようなので、逆に何でもあるはずだ!)

BARNES & NOBLE

 カウンターの小綺麗な東洋系の男性店員に本を探してもらう。キラキラした笑顔で「何かお探しですか?」と聞く彼は、韓国の俳優風の綺麗な顔立ちで、サラサラストレートのワンレングスを前髪を少し残して後ろで縛っていてとてもスタイリッシュ(しかし許されざる者がすると落ち武者になってしまう危険な髪型だ。気をつけろ)。

「ギレルモ・デル・トロの『トロール・ハンターズ』は置いてますか?」
「ギレ…何ですか?」

 私の乏しい英語力では伝えられないようだ。しかし案ずるな、作家名もタイトルも紙に書いてきた。

「えーと、これはどちらが作家名なの?」

 外国人のバンド名なのか曲名なのか分からないのと同じ現象が…。ここでもデル・トロは無名なようだ。おかしい。『ヘルボーイ』シリーズや『パシフィック・リム』、『パンズ・ラビリンス』など数々の名作映画に加え、独特な世界観を湛えた『沈黙のエクリプス』に始まる長編小説3部作は『ストレイン』としてドラマシリーズにもなっている今世紀最重要作家の一人であるしその超絶的な想像力と容赦無い暴力描写は見る者の心を…

 あっ、オタク枠なのか!!! アメリカでも爽やかなモテ系ガイは“俺たちの”デル・トロ知らないのか!!!

 がーん。

「当店に在庫があるようですね。2階の担当者にたずねてみてください」

 小綺麗な店員さんのキラキラした笑顔に見送られ、オタク汁をボタボタと垂らしながら2階のカウンターに行く。担当者は赤く染めたショートボブ、大きな黒ブチ眼鏡のぽっちゃり系女子。

「あの…ギレルモ・デル・トロという人のですね…」
「ああ、彼の本ならこっちよ」

 ちゃんと知ってた!同志よ…!
 おかげで東洋からわざわざ海を渡ってきたオタクはGillermo del Toroの『Trollhunters』を手に入れられました。めでたし。ところで1月8日には俺たちのデル・トロの新作ホラー映画『クリムゾン・ピーク』が公開ですね!!!

BARNES & NOBLE
レジがセルフカード決済だった。文明開化。

 さて、LAでのもう一つの目的は『ルチャ・アンダーグラウンド・アレナ』に行くことです。ではまたらいシュー。(今年こそ毎週月曜日に更新するわよ)


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