Mike in Autopark 

アルパのマイクに聞けばいい

「とにかく行きゃあみられると思ったんだよ」

〜 マリコ・マンロー 2015.8.10 〜

 ボンネビル・ソルトフラッツをご存知だろうか。アメリカ・ユタ州にある100平方マイルの塩の平原で、毎夏開催されるモータースピード計測会『ボンネビル・スピードウィーク』はアンソニー・ホプキンスが主演した『世界最速のインディアン』の舞台でもあり、世界からスピード野郎が集まる。
 2015年は8/10〜14開催という情報を嗅ぎつけ、粛々と準備を始めた。いちばん旅費が高くつく時期だがスピードウェイのためだ知ったことか! そう、開催2週間前に天候により延期が発表されたことも知らずに……
 かくしてレンタカーのシボレーに乗り、砂漠の日射しで熱中症気味、ほうほうの体でたどり着いたところそこは真っ白な塩ばかり。人っ子ひとりいなかったのであった。

「アルパのマイクに聞けよ。背の高い男だ」

 ガススタの南米系おじさんが、彼はボンネビルのことなら何でも知ってるからと教えてくれた。アルパはここから200mのところだと。

 車をゆっくり進めながらそれらしき建物を探す。これはポリス、これはシビルなんとか…あっ、もしかしてアレ!?  AUTO PARTS!  車のパーツ屋のようだ。
 オートパーツ=アルパとは…頭の中でタモさんと安斎さんが空耳確認を始めたがそれはさておき、人見知りを振り払うようにおしりをプリプリ振りながら、たのもう〜とドアを開ける。
 マイクさんと話したい旨を伝えると店の奥から出てきたのは…でけえ! 2mはあるぞ(後に207cmと判明)。砂漠の日射しにさらされてかキャップもTシャツもサンバースト風味。見上げる顔には叡智をたたえたような豊かな口髭。メガネの奥の思慮深そうな目でまっすぐ見つめられる。

「OK、何が知りたい? ナニ、トーキョーからだと!? おーい」

Mike in Autopark

Mike in Autopark

呼ばれて現れたのは…またでけえ(後に198cmと判明)!

「コンニチワ(日本語)」

 なんと日本に留学経験のある彼の息子ケイシーが仕事の休暇でLAから里帰り中だという。
 こちらへ、と連れて行かれたガレージにはいわゆるスーパーカーに加え、戦闘機のようなサメ顔ペイントを施したナゾの形状のマシンが…! これ! これが見たかったの! ねえ乗っていい? 乗っていい? うお〜狭い、まるでコックピットじゃねえか。コックピット知らんけど。
 そして外には砂漠の強い日差しに銀色に輝くコルベット。

「ドウゾ、乗って」

 獣の咆哮のようなエンジン音を轟かせて塩の湖まで爆走。広い空に吸い込まれるように続くまっすぐな道。レース用に改造されたコルベットは速い。エアコンないから暑いよねと言ってたけど、あまりの加速に冷汗だ。

 ケイシーはコルベット(改)でウェンドーバー中を(凸凹道でマフラーをこするたびに悪態をつきながら)案内してくれた。
 その間にマイクは資料を探してくれており、店に戻ると愛車(彼もコルベット)を塗装していた手を休め、○○年の最速はこのレディだ、○○年のマツダはどうだった、『世界最速のインディアン』の撮影時は…と、65年から見続けているだけあってまるで生き字引。おみやげにポスターやステッカー、Tシャツ、ピンバッジなどを持たせてくれる大盤振る舞い。もちろんうれしさに昏倒だ。

 さて、昼間案内してくれたスポットの中に「エノラ・ゲイ記念館」がある。
 実はここウェンドーバーは、エノラ・ゲイが広島への原爆投下の準備を進め、爆弾を載せて飛び立った地。その軍の飛行場は今でも現役で、今は無人戦闘機、その名も「プレデター・ドローン」がスタンバイしている。

 広島の人だよね…と気にしながら連れて行ってくれたその記念館は無料で公開されており、当時の資料のほか原子爆弾「リトル・ボーイ」の原寸大模型も展示されている。パイロットのサイン入り。

Mike in Autopark

Mike in Autopark

「広島の資料館とは視点が違うだろう?」

 招かれた夕食の席で話題になり、いくつか意見交換をした。祖母の被爆体験談に眠れなくなったこと。ある外国人のヒロシマ観がマッドマックス的で笑っちゃったこと。マイクは家族で広島の平和記念館に行き、奥さまは展示内容のあまりの悲惨さに現実とは思えなかったという。

 高台にあるお家のバルコニーからは、広い空から塩の湖に沈んでいく夕陽。だんだん青くなっていってすごくきれい。
 「この時間がいちばん好きだねえ」というマイクさんは、生まれも育ちもウェンドーバー。生まれも育ちも広島の私が招かれたのは不思議な縁を感じる。ずいぶん先輩だけど、故郷を愛する者として、そしてマシン好きのいち個人として、いろんな話題と一緒に「ヒロシマ」の話を率直にできてよかった。あっ実はマイクは市長でした(まじか)。

 帰る頃には空は満天の星。塩の平原に青白く光る稲妻を背景に疾走する轟音コルベットの中で、私のボンネビル・スピードウェイの旅2015は大盛況のうちに幕を閉じたのであった!

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