2022.8.14

バイクの何がいいって聞かれたら困るけど（その６）

自画自賛への道！

春から時々、@motordrop氏のツーリングにご一緒している。ある友人は「日本を代表する英車乗り」と称す人物で、経験も知識も豊富でまったくその通りだと思う。偉大な人物にお誘いいただき、心のおサムライは恐悦至極の真っ最中なのだが、氏は「俺のツーリング不評だから」と笑う。

どこがですかーっ

まあたしかに「休憩なし」「ごはんなし」「道なき道をゆく」で、苦行３点セット詰め合わせ、のおもむきはある。

「休憩なし」
まずはすさまじい活力で房総半島を横断する。コーヒー１缶分ほど小休止したのちグイグイと南下。それからコンビニに数分寄り、チカラの限り北上し、気づけばすごい距離を移動している。甲子園でも目指しているのか。あるいは戸塚ヨットスクールか。

「ごはんなし」
食事休憩は基本的にない。コンビニの軒先でわずかな日陰を分け合い、数分で終わらせる路上派スタイルだ。ほぼ行軍。

「道なき道を行く」
アスファルトを全力で駆け抜けた先には、見たことのない景色が待っている。1回目は海沿いのガレ道だった。2回目は砂、3回目は森、4回目は崖である。当然ながら走るのは難しい。コケてないのは奇跡。


しかしこれは求めるすべてが揃った奇跡の３点セットではないか。俺らとにかく走りたいんだよ、という欲望は確実に満たされる。そして自己肯定感が上がる。なぜだ。そんなわけで「とにかく走る」ことの効能を、段階的に考えてみたい。

ＦＡＳＥ１：心の汚れが落ちる
バイクで風に吹かれるのはいいもので、ちょっとぐらい嫌なことは風が洗い流してくれる。たとえば、誰かに言われたひどい一言。まあ日本はまだ男尊女卑なんで、時に「ここは地獄の一丁目か！」と思うんだが、よく考えたらそんな時代錯誤な人なんて全体の１％ぐらい。進化論の外側に脱落したおじさんの放言だ。捨て置け。

ＦＡＳＥ２：理路整然となる
次の段階は、頭の中でこんがらがっていたことが、「あ、こういうことじゃん！」と整理されていく。人は移動速度で考えるのかもしれない。時速１００ｋｍの速さで走っていると、あっ、ここは５０ｋｍ制限なんでもちろん時速５０ｋｍで走ってますよ、出てたとしても５２ｋｍぐらいじゃないですか。ともかく速く移動すると考え事がはかどる。
泥棒でも入ったかと思うぐらいカオスな脳内も、こんまり先生が片付けたぐらいになる。
ときめくものしかありません！

ＦＡＳＥ３：何かが目覚める
ここからが長距離ライドの本領発揮。心の奥底に眠っていた何かがキラリと目覚める。
経験上、あまり自分の本質をさらけ出すと社会生活に支障が出る。だから心の何者かには眠りぐすりなどを与えてるんだけど、いつの間にか存在も忘れるのは現代人あるあるじゃないですか。

それがどういうものかというと、忘れていた大切な何か、みたいなきれいなもんではないし、眠れる獅子、みたいな静かな威厳もない。なんだろう…あっ、お前は！
クラッシャー・バンバン・ビガロ！　「刺青獣」と呼ばれたアメリカ出身の巨漢レスラーである。いたね、私の中にビガロ！（こんな人）

ＦＡＳＥ４：友だちってすばらしい！
目覚めたビガロが何をするかというと、私の友だちを次々と褒めまくる。

あの子の優しい言葉を覚えてるかい？
あんな頭のイイ子はいねえよ。
あの子はミシガン湖より深い愛を持ってるぜ。

そして丸太のような屈強な腕で抱きしめる。まずはプロレスに拒否感のないＭちゃんからだ！

Ｍちゃんいつもありがとう（ガシィ！）（痛い！）
ＩちゃんもＡちゃんも来いよ（ガシィ！）（怖い！）

次々と友人たちを抱きしめるビガロ。阿鼻叫喚の中、私は友の優しい言葉や知的な助言、温かい支えを思い出し、友情の素晴らしさを再確認するのであった。美しき友よ！



ＦＡＳＥ５：ついに自画自賛！
友をハグし終わったビガロは、ついに私を褒めはじめる。４つの段階を経て試合は自画自賛フェーズに突入だ！　いや、この場合はビガロがやってることだから厳密には自画自賛では（こんらん）まあいい、ここは乱暴者に見えて意外と試合巧者のビガロに任せよう！

仕事に注ぐ時間と情熱、俺は知ってるぜ（うん。）
仕事もしながらPTAまでよく頑張ったな（ありがと。）
３０越えてキックボクサーなんて並の努力じゃできねえよ（てへ。）
毎晩短歌も作って創作活動も継続してるじゃねえか（えへへ。）

そしてビガロはおもむろに両手を広げ、ガッチリと私を抱きしめる。その力は想像以上に強くギリギリと私を締め付け、息もできないほどだ。薄れゆく意識の中、私は人知れず努力と辛抱を重ねた過去の自分を誇りに思えたのであった。ア…リ…ガ…ト…（ガクッ）

とかいう悲劇には至らず目的地に着いて、でっかいクモの巣を足で払って汚れたベンチにドカーッと座り、煙草に火をつけたのであった！　完！



ぬははーこの満面の笑み。ビガロのハグ効果は絶大だ。みんなも心にビガロを！
ちがう！　バイクはいいよって話だった。