ランボーに失礼ですよ

先日、A氏にキレた。A氏というのは仲のいい友だちで、40代後半の男性だ。共通の友人も多く、事情を尋ねられる。ご心配をおかけしています。心当たりのある方はA氏の気持ちに寄り添ってください。私としては覚悟を決めてのケンカです。

A氏のいいところはたくさん知っている。だから友だちなのだ。でも、どうしてもスルーできない一言があった。


ある日、一緒に仕事をしていた女性が、仕事を辞めると言った。理由は、職場の男性から受けたハラスメントである。ショックだった。仕事ができる彼女と一緒に働くのは楽しかったし、そんな彼女が打ち込んだ仕事を離れなきゃいけないなんて、悔しい。

女性が働く時、ハラスメントを受けることがある。それは、多くの男性が知らないことかもしれない。私も最近はめっきりないので、社会が変わったのだと思っていた。しかし、世の中にはまだ、女性が嫌がらせを受ける職場もあるのだ。彼女が仕事に注いだ情熱を思い、それを上回る嫌がらせを思うと、やりきれなかった。

その話をA氏にしたら「男も大変なんだよ」と言った。えっ、どういうこと? 男も大変だからガマンしろということ? と、混乱した。驚いたし腹も立った。いや、そりゃ男女ともに大変なことはあるけどさ、仕事を失った女性にかける言葉としては、不適切でしょ。
でも、その場では文句は言わなかった。仲のいい大切な男友だちだから、わざわざケンカはしたくない。

しかし、何日経ってもモヤモヤしていた。何も言わないことは、賛同と同じかもしれない。彼女が受けたハラスメントを、私も「ないもの」にしようとしてるんじゃないか。彼女だけにガマンを強いているんじゃないか。

そこで考えた。ケンカにならないように、伝えてみよう。「男も大変なんだよ」と言う男性に悪気はないはずだ。ただ、女性がハラスメントに遭っている現実を知らないだけなんだ。

女性の立場が弱くなりがちな社会で、女性が働くのはけっこう大変だってこと、少しだけ考えてほしい。そのためには、「男も大変なんだよ」という発言に、どう返せば伝わるのか? 

「だからってセクハラを我慢しなきゃいけないの?」
正論だ。しかし正論は対立のもとだ。「そういう意味じゃない!」「じゃあどういう意味なの!?」と、戦いの火ブタが切られるだろう。ブタがかわいそうだ。

「あんたを責めてるんじゃない。あんたにパワハラしてくるようなやつを責めてるんだ」
これもある意味、真だ。ハラスメントは男女ともに受けるし、セクハラは往々にしてパワハラに進化する。極端に言えば、俺の愛に応えられないのか、という逆ギレだ。ポケモンなら進化はKawaiiが、セクハラ野郎が進化したらタタリ神である。人事の方はもののけ姫を待たないで適切な処置をしてください。

「そんなこと言う人はモテないよ」
これだけは言ってはいけない。おそらく真実を含んでいる。
という下品な冗談はさておき、こういった「傷つける」ことを意図した言葉は、友人同士の会話には適さない。二度と会いたくない人にだけ使うこととする。

「キアヌ・リーヴスならきっと『大変だったね』って言ってくれるのに」
悩みは、聞いてもらえるだけで慰められるもの。してほしいことをきちんと伝えているという意味で有効だ。好みのイイ男に置き換えて使ってほしい。ただしクリヘムやティモシー・シャラメだと中年男性には伝わらない危険があるので、アラン・ドロン、松平健など永遠の二枚目がおすすめだ。

と、名案は浮かばないまま数日、思い悩んだ。
でも、私はかつて友人に”クソリプ”的な発言をし、その友人は即座に指摘した。私はマリアナ海溝ぐらい深く反省した。だから今も友だちだ。
友だちだから指摘し合える関係でありたい。だから考える。

「それはベトナム帰りのランボーに『街も大変でしたよ~』と言うようなもので、国のために戦ったランボーに失礼なだけでなく、ランボーの虫の居所によっては痛い目を見るだろうな!」

結局、名案は浮かばず、ジョークにすることは無理だと悟った。それに面白く言うことで、問題を矮小化っていうか、たいしたことじゃないと思われても、よくないしね。

やっぱりスルーしようかな。言い方もわかんないし。いや、でももし若い女性に言ったらどうする? セクハラやパワハラに悩んでる若い女性に「男も大変なんだよ」って言ったら、どうなるだろう。傷つくだろうな。仕事やめちゃうかも。絶望してうつ病とかになっちゃうかもしれない。自殺とか…キャー! やっぱり言わないと!

それで、LINEでキレた。仕事を辞めざるを得ない女性に対して「男も大変なんだよ」はナイと。それだけは、撤回しろと。

そのLINEにまだ返信はない。無視か。正直なところ「そっか、了解」ぐらいを期待していた。でも仕方がない。まあまあの剛速球を投げたから。

A氏は好きな友人だ。話は面白く、たいてい思いやりがある。その彼と決別している現状は残念だが、私の友人を傷つける発言はスルーできない。

ハラスメントは私の友人に限ったことではない。みんなの娘やお姉さんや妹、お母さんとか、家族や友人もこんな目にあっているかもしれない。そこでアドバイスしようとか社会を変えようとか、責任感を持たなくってもいい。「大変だったね」とか言うだけでいい。

「こんなことでキレる必要ないんじゃない?」と思う人もいるだろう。でも、3人の友人(女性)に相談したら、3人とも「わかる!」「言われたことある!」という反応だった。つまり、男性の友人のみんなは、知らないうちに誰かを傷付けたり、それによって嫌われてるかもしれないよ。もし相手がランボーだったら、ちょっとした目に遭うかもしれないよ。これ書くとさらに嫌われるかなーとは思うのだけど、ハハハ、「オレの屍を越えてゆけ!」という気持ちで書きました。

もし知りたい方は、「男性は知らない。すべての女性がやっていることを。」という記事に丁寧に書かれていたので、どうぞ。 こういう社会構造は、女性だけでなく、男性も傷つけますよね。管理職とか先輩とか、上司的な存在から理不尽なことを言われる温床になっているから。そういうハラスメントはだめだし、それを許す・スルーする社会の風潮も、少しずつ変えていきたいよね。


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