2022.2.8

バイクの何がいいって聞かれたら困るけど その4(ぐらい?)

貴公子たちのツーリング



冬空を眺めながら、ふと春のツーリングを思い出した。バイクはいい。いろんなバイクがあるけれど、みんな自分にとって「特別な1台」に乗っている。
(なんで急に思い出したかというとですね、実は運動がんばりすぎて膝を痛めまして、あと2週間ばかりバイクはお休みする予定です。乗りたーい!)

ともあれ、かつての春先のある日、ヘリングスさんにお誘いいただき海の近くを走ってきた。

ヘリングスさんとは、イカしたバイクに乗るヒゲの貴公子である。貴公子の周りには貴公子が集まるもので、この日は青い革ジャンの貴公子、電熱ベストの貴公子、ゴリラ系貴公子、微笑みの貴公子、はぐれがちな貴公子などが集った。



集合場所で一番多かったのが「ベロセット」。かつて英国で製造されていた名車である。現金輸送車が襲われたら中の現金が目当てだが、ベロセットが襲われたら車両そのものが目当てだ。そんなバイクである。同時に3台も見たのは初めてだ。おい、周囲に武装集団はいないだろうな。

ほかにも英国の名車トライアンフ、米国の名車ハーレー、日本の名車ホンダ(CB72!ちょうかわいい!)などが揃う。さすが貴公子たちの祝宴だ。総額ちょっと行く感じの高級暴走族である。いや、暴走はしないけど。



有料道路に入ると、突き抜けるような晴天に富士山がそびえる。その威風堂々たる姿、まるで我らを祝福するようだ。アクセルをバーンと開け…たくなる気持ちを抑え、交通安全の神なら見逃す程度のスピードで行く。

バイクの何がすごいって、自分の足ではぜったいに出せないスピードで走れるところ。風景がどんどん後ろに流れていく。オートバイにライドすることは別格のハッピネスなんだぜ、と心のルー大柴がキラリと目を見開くほど、バイクは人を自由にする。
大人になると社会的立場とか気を遣うこともあるけれど、バイクを運転している間は私が何者かなんてどうでもいい。死なないように気をつけるだけでいい。



海が見えてくる。山の中のカーブを左右に走りながら、高台から海を見渡す。この日は風が強く、白い波が姿を現し、踊っては消え、踊っては消える。海はいつも表情が違う。しかも人間に見られていることなんてお構いなし。ハローと話しかけても無視。それはまああたりまえだけど、泰然自若な海を見ながら走るのは気持ちいいよ。

ちなみにヘリングスさんは「走り」を愛する人なので、とにかく走って気持ちいいところに連れてってくれるんだ。さいこう。



海沿いの街の夕暮れのファミリーマートが次の集合場所だ。着くと、燦然と白く輝く異国の車が停まっていた。おい、ひときわでかいぞ!

うわあーこれはなんですかーっと心のキッズが駆け寄る。車名のロゴはもちろんスーパーカーフォント。ま・せ・ら…マセラッティ! 実在したっ!
ちなみに現在の表記は「マセラティ」が標準で「マセラッティ」と言うのは昔の人だそうですよハハハ。中から出てきたのは、革ジャンにリーゼントの貴公子だった。インナーのTシャツは、ニルヴァーナのイン・ユーテロ。圧倒的に信用できる。

「じゃあ行きましょうか」というヘリングスさんの一声でみんなエンジンをかける。

乗り物というのはどれも呼吸音が違う。「ババンッドフッドフドフドフ」だったり、「バシャードドドンドドドンドドドン」だったり、「キュルルバババンバンバンバン」だったりする。私のは「ドンシュコシュコ…ドワットットットットッ」かな。

ねえねえマセラッティはどんな音? 心のキッズがわくわくしながら注目する中、リーゼントの貴公子がキーを回すと、車は息を吸って「ヴォオオオオオーーーーー!」と吠えた。うおーっ獣の咆哮だっ。



乗り物を所有するのは特別な喜びで、愛し方も人それぞれ。たくさん所有して乗る人もいるし、1台にずっと乗る人もいる。同じベロセットにしたって、年齢を重ねてから恋に堕ちたベロセットもあれば、24歳で買って20年以上乗ってるベロセットもある。10人いれば10通りの物語があるのがバイクだ。

私のエンフィールドは、人生で3台目のバイク。特別な1台だからもう何もいらない。走れる限り一緒にいよう。

そして特別な1台に乗ると心持ちも変わる。正しい心でありたいものだと思う。実際に一緒に走ってくれたみなさんは、温厚で知的で思いやりがあり、こだわりがあり、人としてかっこよかった。まさに貴公子。「おじさんだからさ…」などと言わずに貴公子を自称していただきたい。

あっ余談だけど何度も姿を消したはぐれがちな貴公子は夕食の席で話がループしていた。

僕の彼女24歳なんですよ、友だち紹介できますよ
まじか、紹介してよ
いいですよ、どんな子がいいですか?
誰だっていいに決まってるだろ、女のコってだけで素晴らしいんだよ
わかりました、20代と30代だったらどっちがいいですか?
だから誰でも尊いと言ってるだろう
マッチングアプリもいいかもしれないですね
できるならとっくにやってるよ、とにかく紹介しろ
わかりました、どんな子がいいですか?

彼はにこやかに続けたが、話はメビウスの輪のように終着点が見当たらなかった。そして彼が本領発揮をするのはこのあとで、詳細は省くが最終的に心のオーディエンスが「ヘリングスさんの顔も三度までだぞっ」と叫んだが、それでもヘリングスさんは温厚だった。さすが貴公子。はぐれがちな貴公子も、なんか愛されオーラが出てるっていうか愛の鎧で護られてるっていうか。さすが貴公子。



伊豆スカイラインも走ったし、草原とかガレ道とか、二輪で走れるとは思えない場所にも連れて行ってもらった(ガレ道なのに片手で動画を撮ってくれたKさんすごすぎる!)。
楽しかった。こうやって、バイクに乗れない日に思い出すぐらい。

ヘリングスさんありがとう。また声かけてください。みんなありがとうー! また一緒に走りたいよー!! らぶ!!!

と、乗るといい人になるのもバイクの効能かもしれないねハハハ。


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