アンダレー 2021.12.31

【CMLL】2021年のルチャドール

2021年のCMLLは激動であった。「ルチャリブレ専門家」を自認するオタクとしては、激動の1年を振り返り、ふつうの人には呪文にしか見えないであろうルチャ日記といふものをしてみむとてするなり。

■ミスティコvsアベルノ再び!

 まず、初代ミスティコがミスティコに戻ったー!
 しょっぱなから何のことやら分からないがこれはですね、2004年にCMLLで「ミスティコ」となったルチャドールが2011年にCMLLを離脱してWWEへ。それに伴い「シン・カラ」に改名したのだが、CMLLの方では新しい「2代目ミスティコ」を誕生させ、そうこうするうちに初代ミスティコは幾度かの改名を経て「カリスティコ」としてCMLLに戻り、しばらくするうちに今度は2代目ミスティコが2021年8月にCMLLを”卒業”して「ドラリスティコ」となり、それに伴いカリスティコは「ミスティコ」に戻ったー! という次第です。

 実に10年の時を経て再びミスティコに! さらになななんと、その永遠のライバル「アベルノ」もCMLLにカミングバーック! この二人の最後の対戦は、2011年1月のファンタスティカマニア。2021年クリスマス大会メインでの11年ぶりの王座戦は、もうルチャの美学全部入りでカタルシスに泣きながら膝をついたところで頬に手をやると、こ、これは血涙…奇跡か…という試合なのでぜひ。



 カリスティコ式トルニージョは簡素にして至高ッ!

■アトランティスJr.&サングレ・インペリアルvsエウフォリア&エル・コヨーテの決戦

 クリスマス大会のセミは「グラン・アルテルナティーバ」の決勝。これは先輩と後輩が組み、優勝者はランクが上がるトーナメントで、2021の決勝はテクニコ(善玉)vsルード(悪玉)となった。

 決勝進出1組目はテクニコの「アトランティスJr.」&「サングレ・インペリアル」組。
 アトランティスJr.は偉大なるヒーロー「アトランティス」のご子息で、2019年1月デビューにも関わらず早くもパドリーノ(先輩)役。躍進ぶりが伺える。パートナーのサングレ・インペリアルは、偉大なる悪役「サングレ・チカナ」のご子息。今年の「オメナヘ・ア・ドス・レジェンダス(歴史的な選手へのオマージュ大会)」はサングレ・チカナだったし、団体としても”推し”であることがわかる。  レジェンド2世タッグはやはり華やかで、二人とも背が高くスマートな身のこなし。顔もいい(マスクだが)。

 対するもう1組はルードの「エウフォリア」&「エル・コヨーテ」組。
 日本でもおなじみの”巨神兵”エウフォリアは2021年、長年ユニットを組んできたウルティモ・ゲレーロ親分と「あいつサイテー!」とついに決別。しかし彼は、186cm105kgと恵まれた肉体で、多彩な技とパワー、熟練した試合運び、そして常識を備えるちょーすごいルード。実はCMLLいちの逸材といえよう。そんなわけで大活躍中。そしてエル・コヨーテは、その名のとおりコヨーテを模した遠吠えで子供人気も高いルード。ファーを使ったマスクもキュートで”Rudo Peludo(ルード・ペルード)”などと呼ばれ愛されている。直訳すると”毛むくじゃらのルード”。布団が吹っ飛んだに代表される鉄板ジョークは世界中に存在するのだ。

 実はコヨーテとSインペリアルは、かつてのタッグパートナー。ルードとして二人で手を取り合い戦いを続ける中、ある日CMLL入団のチャンスが訪れる。しかしそのトライアルで提示された条件は、パートナー同士のシングルマッチであった。その時を振り返ってSインペリアルが語るには「コヨーテはルードでやる方が圧倒的に合っている。僕の方がスタイルを変えるべきだ」。そこからSインペリアルはテクニコとなり、二人は別々の道を歩み始めたのであったーー、という過去があるだけに、オタク的には熱い対戦だ。

 そしてエウフォリアはというと、2012年大会ではテリブレと組んで優勝。ていうかこの方々が組んだ時点で優勝でしょ、と思わなくもないが、しかしこの年の参戦者は強豪ばかりで、初戦はマスカラ・ドラダ&ティタン、2回戦はブルーパンテル&レイ・コメタ、3回戦はルーシュ&ドラゴン・リーという錚々たる相手を倒して勝ち上がり、そして決勝の相手はアトランティス&トゥリトン。なんと今回の対戦相手アトランティスJr.の父君を倒して優勝を果たしているのであったー! とまた熱くなるオタクだ。
 エウフォリアはパートナーのエル・コヨーテを「独自性があり魅力的」と絶賛。果たして結果は…(いちおネタバレしないでおくね)!

■ソベラノJr.が「レジェンダ・アスール」優勝

 エウフォリアのご子息「ソベラノJr.」が膝のケガからついに復帰! そして「レジェンダ・アスール」で優勝!



 レジェンダ・アスールとは伝説的ルチャドール「ブルー・デモン」に敬意を評した大会で、セミコンプレート以上、要はヘビー級に近いルチャドールだけが出られる大会。肉体改造で階級を上げたことで出場資格を得た。しかしそれに伴い4年間保有したナショナルウェルター級王座の返上を決意したと明かした。
 膝の手術を経ても美トルニージョは健在。というかさらに美しくなっている”天空のプリンス”の新たなステージでの活躍に期待!

■テリブレは「アンダーワールド王座」を防衛

 11月の「死者の日」大会だけ登場するベルト、それが「レイ・デ・ラ・インフラムンド(地下世界の王)」。2020年にエウフォリアとの激闘を制して戴冠した「テリブレ」が、トーナメントを勝ち上がったアトランティスJr.を下し、初防衛を果たした。



 情報番組「インフォルマ」の司会フリオさんはいつも、テリブレを”tiene un rostro solo un madre puede querer”と紹介する。”母親だけしか愛せない顔を持つ”という意味で、つまり揶揄しているのだが、それホントに顔にコンプレックスある人にやったらダメなやつですから。ハラスメントですから。つまりテリさんはもともとセクシーな美形に分類される人で(デビュー当時はアイドル的に色気キャラで推されうんざりしたらしい)、死者の日のガイコツメイクを施すと、もう鬼に金棒、セナにマクラーレン、ザコシにテンガロンハット。おやおやどのたとえもうまく行かないぞ。スタローンにハチマキ。もうやめておこう。とにかく最高にかっこいいと言いたい。あとテリさんの入場曲ZZ TOP "La Grange"を聞けばどんなに疲れていても立ち上がれる。

■中年の星、ラシエル&カンセルベロが初王座を獲得!

ラシエル、カンセルベロがヴィールスともにナショナルトリオ王座を獲得。



 とにかくジャベ(関節技)がすごいですよねこの人たちは!! キャリアは長いが初のタイトルとなる実力者ラシエルは「言葉にできない感情で涙が溢れて止まらなかった」と感動コメント、全世界のルチャオタクがパソコンの前でもらい泣き。するもつかの間、「カンセルベロは家族が300人いるんだよ」とかすげー情報をぶっこまれてこんらんするのもルチャリブレの魅力と言えるだろう。確かにカンセルベロは以前のインタビューで「うちのおじいちゃん19人子供いるの」と言っていた。そして「いちばん有名な親戚はケモニート(青いキグルミの小人ルチャドール)」とも。
 すべての言葉が死角から飛んでくるインタビューだが試合のダイジェストを観るとファンタジーかというぐらい技がすごい。いや~ルチャリブレって本当に素晴らしいですね~

■初開催のコパ・ディナスティアスで優勝したのは青豹兄弟!

「ブルー・パンテルJr.」&「ブラック・パンテル」が「コパ・ディナスティア」優勝! 「コパ・ディナスティア」は、家族とタッグを組んで出場する”家族カップ”。親兄弟にも選手の多いメキシコだからこそ開催できる大会といえるが、実況のフリオさんによると意外にもCMLLでは初開催だそう。じゃあファンマニで開催されたのは”世界初”だったんですね?



 二人の父の「ブルー・パンテル」は数々のタイトルを手にしてきた偉人であり、60歳を超える今も現役バリバリの超人。パランカ・ラグネロ(脇固め)、ヌド・ラグネロ(結び目固め:仰向けの相手の足を四の字風にキメたあと、その足の間に相手の腕を結び目のように通してキメる絶体絶命なメキシカンストレッチ)などの関節技に加え、弾丸のようなトペも使うオールマイティの選手で、偉大なるその技は息子たちに引き継がれている。

アンダレー  最も魅せるのは次男のブラック・パンテル(現ダーク・パンテル)。「カチョーロ」としてデビューしたのち「テ・パンテル」に、そして「ブラック・パンテル」となり、現在は「ダーク・パンテル」と、3度も進化を遂げている。並のポケモンではない。そもそもポケモンではない。鍛え上げられた肉体のパワーに加え俊敏性を兼ね備え、ロープを器用にくぐったかと思えば父親譲りの弾丸トペを放ち、まさに「豹」を体現するようなルチャドール。日本でもおなじみゲレマヤさんとタッグベルトを持っていたこともある。ちなみに現在はデビューしたての弟がカチョーロを名乗っている。

 ブラック・パンテルは心配ない。心配なのは長男のブルー・パンテルJr.だ。180cm100kgの完全ボディは、さながら実写版のキン肉マンソルジャー。もちろんパワーもあり、相手を二人まとめて投げたりする。最強感で右に出る者はいないだろう。しかしそれが最強とは限らないのがルチャリブレの七不思議の一つだと言われている。わけではないが、テクニコとして活躍の機会に恵まれていないのが現状だ。

 CMLLには若手の大型ルードが少ない。こんな最強感ある完全ボディで自分より小柄な相手を倒してしまっては、ただの弱い者いじめだ。大型ルードと言えばディナミタで、長兄サンソンと一時期よいライバル関係になりそうに見えたが、彼らはブルパンJr.を残して新天地(AAA)へ去った。

 最強ボディを手に入れてしまった者だけが知る悲しみを彼は今、噛み締めているかもしれない。と思うと夜も眠れない。いや、寝るけど、とにかく悲しき巨人である。しかし飯塚高史がアイアンフィンガーを手にバーンと炸裂したように、いつかドーンと活躍してほしい。

 さて、前述のディナミタ(サンソン、クアトレロ、フォラステロ)は2021年、史上初のトリオ王座三冠を達成。しかしその直後、CMLLを離脱した。われらルチャファンの心にはぽっかりとブラックホールが口を開け、もうだめだ、何もかもが真っ暗な虚空に飲み込まれ無となってしまうだろう、と絶望するもつかの間、ボラドールJr.とテンプラリオがレレボス・インクレイブレで組んで優勝したり、炎の魔術師エチセロ先生がついにヘビー級王者になったり、悪魔の双子がデビューしたり、過去からタイムスリップしてきたような選手レトロが現れたり、ゲレマヤさんが再び流暢な日本語でメッセージをアップしたり、オタクには落ち込んでいるヒマもない激動の2021、大いに楽しませていただいたのであった。

みなさん大好きです。体に気をつけて。日本から活躍を祈っています。

2021.12.31 明知真理子


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