アンダレー 2021.4.14

バイクの何がいいって聞かれたら困るけど その2

アンダレー 金曜日の夜はネガティブの沼に沈んでいた。仕事ですこし自信喪失する出来事があったのだ。このところ高評価をいただくことが多く、自分でも一つひとつ全力でやってきた自信もあった。でも私もまだまだだ。まだまだ「携帯イジりながら話してもいい程度のヤツ」なんだ。ショック。私のハートはガラスでできてるんだよ。防弾だけど。しかし防弾だってショックは受けるよ。それに重いから沼に沈むよ。

大丈夫。明日は謎の多い友人「マッケンさん」の誘いでバイクキャンプに行くんだから! と無理やり自分を寝かしつけ、早起きして紅茶を淹れて心身を整え、15分前に到着した。つもりだったがそもそも集合時間を勘違いしており、15分遅刻していた。ごごごごめんなさい。私はやっぱりだめなやつなのではないか。

しかしバイクに乗っている間は運転に集中していい。1速に入れて発進し、2速に切り替えて加速、さらに3速、4速と切り替える。こういう作業を繰り返すうちに心が落ち着いていく。バイクは人力では出せないスピードで好きな場所へ連れて行ってくれる魔法の乗り物だ。

第2の待ち合わせ場所に着くと、あれは! 死んだはずの「軟式さん」と喪主の「まさし」じゃないか!
いや、死んでるわけない。ケガしてて走りに来なかった時にマッケンさんが「いい葬式だったよ。喪主はまさし」と言っただけ。

会うのは1年とか2年ぶり。うれしくて駆け寄る。でもすぐ出発だから駆け戻る。一緒に走れるのうれしすぎる。1速から2速に切り替えて、さらに3速に入れる。みんなのバイクは速いから先に行ってもらう。大丈夫、信号待ちで追いつくから。

そうやって黙々とギアを切り替えているうちに素敵なオートキャンプ場に着いた。素敵な敷地に並ぶ素敵なトレーラーハウスはアメリカから取り寄せたもの。素敵な芝生の上で素敵な子供たちが遊ぶ。素敵じゃないですか。すぐ側を素敵な川が流れている。いいじゃないですか。

夜は素敵なBBQ。素敵なライダーたちには知らない顔も多く、蘇った軟式さんと喪主まさしの近くでモジモジ化する。しかし肉がうまい。素敵じゃないですか。もしバイクがなければ今も部屋の中で、沼から出られなかったはずだ。マイナス思考の連鎖で心が真っ黒になっていたはずだ。オセロで言うなら黒が圧勝。平たく言えば地獄。バイクがあってよかった。

そんなことを考えていたら、まさしが「バイクかっこいいね」とほめてくれた。おお、友よ。黒が圧勝しそうなオセロに白を置いてくれる友よ。そしてその白は的確な場所に置かれた。ごらん、黒がパタパタと白にひっくり返っていくよ。

子供の頃からバイクに憧れ、20年前に一目惚れしたロイヤル・エンフィールドにずっと乗っている。その時はロイヤル・エンフィールドが何かなんて知らなかった。今も知らないに等しい。でも買ったときからずっと、このバイクが好きだ。一度好きになったら全力で愛するのが私のいいところだ。
仕事だってそうだ。全力でやるだけだ。携帯など投げ捨てたくなるいい質問をしよう。そしていい記事を書く。読んだ人が陸上選手なら障害物競走で自己新を出すぐらい元気が出る記事だ。元気になった人は会社で元気に働き、同僚にも親切にするだろう。そして親切のドミノ倒しが起こり、社員たちのモチベが上がり、会社の業績も上がり、その利益を地域に還元し、社会は豊かになり、戦争は終わり、世界が平和になる。そのドミノを最初に置いた者としてノーベル賞を受賞するまでがんばろう。

もちろんそんなことまでまさしは言っていない。単にバイクをほめてくれただけだ。でもその一言のおかげで、自分が大切にしているものを思い出した。オセロは白が爆勝だ。ありがとう喪主まさし! いつかノーベル賞をもらったらフェラーリ買ってあげるね!

ちなみにまさしのバイクもかっこいい。白いシートが付いている。日に焼けた青の次に好きな色は、汚れた白。あのシートがどんどん汚れていくのが楽しみだ。しかもシートの後ろにはかっこいい剣が付いている。軟式さんの敵討ちに使うのだろう。

いや、軟式さんは生きていたんだった。そしてこの日もマッケンさんとトークバトルを繰り広げていた。

頭の回転の速いマッケンさんはツッコミも鋭い。並の者なら数秒でKOしてしまうハードパンチャーだ。しかし軟式さんは打たれ強く、いくら打ち込まれても倒れない。今のはさすがにダウンだろうというパンチを食らっても、飛び起きて平然と戦いを続けている。まるで往年のノゲイラvsヒョードル戦を見ているようだ。例えが古いがとにかく名勝負量産コンビで、この夜も極上のエンタメを提供し、オーディエンスを熱狂の渦に巻き込んだ。

翌朝には「ぶーちゃん」と「アラレちゃん」がすごくおいしい朝食をたっぷり用意してくれた。二人の愛をカタチにしたおにぎりはさいこうだった。最高すぎて魂のダンスを踊った。
イワサキさんがかっこいい走行写真を撮ってくれた。理想の私が写っていた。いや、これは私じゃないかもしれない。ジェニファー・ロペスかもしれない。

帰り道、信号待ちで横に停まった車の中から、女の子がこちらを見ていた。バイクが気になるのだろうか。手を振ったら野の花のような笑顔になった。前歯が何本かなかった。もうすぐ大人だね。

私もそうだった。父の運転する車の後部座席に後ろ向きに座り、バイクが走ってくるのを待っていた。手を振ると幾人かは振り返してくれ、そのたびに「バイク乗りはかっこいいうえにやさしいな!!」と天にも昇る心地で足をバタバタさせた。この子もそうかな。

その車は次の信号で軟式さんの横に停まった。軟式さんはこなれた感じで手を振っていた。

かっこいいうえにやさしいじゃん。


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