2021.2.13

【短歌日記】2021年1月25日〜2月7日

1月25日(月)

Twitterを眺めるとセンスのない言葉が目に入る。「センスがない」とは善悪ではなく、思いやりがない、げんなりさせる、エンパシーの欠如などを意味する。

他者の行動を(たとえば私が)独善でジャッジするのはさもしい行為だ。だけどライターの仕事にはつきもので、物事のアリ/ナシを判断しておくのは大切な作業だ。ジャン・ピエール・ジュネ監督の短編映画『僕の好きなこと、嫌いなこと』ではドミニク・ピノンが楽しそうにやっていた(ここに映像あった。フランス語できる人!)

死ぬ死ぬ詐欺のDV彼氏のようだと話題の『映画秘宝』編集長DM問題。一般社会的にはナシだけど、でも映画秘宝の編集長ならアリ得る。何かの能力が突出した人は別の何かが欠けているもので、面白い雑誌の編集長にはどこか変わったところがある。人間的な正しさを「編集長」という職業に求めるのはセンスがない。『映画秘宝』は不謹慎だから愛読するのであり、編集長の頭がちょっとオカシイからと言って雑誌自体を嫌いにはならない。でもさ、てらさわホークが新編集長になったらもっと好みの雑誌になりそうでアリフォルニア。

同じ雑誌でも『ユリイカ』元編集長の「女はクッキー焼いてろ」問題はナシ。雑誌にも性格がある。10代の頃に一生懸命読んだ、いや読もうと努力した雑誌は、男尊女卑のオッサンが作っていたとは。私の青春を返してちょうだい。

ついでだから書いておくと、プロレスでのセクハラマッチはセンスがない。マスクマンの目の部分を「餃子」と表現するのもセンスがない。想像力も語彙もない。いいところがひとつもない。ナシナシのナシ。
でも何でもアリなのがプロレスだから、アリでいいっすよ〜。

でも彼は煙草を一本だけ出して日本でいちばん美しく吸う


アリフォルニア!

1月26日(火)

『刑事ヴァランダー』最終話を観て泣く。話もイイけど「最終話」が存在するのが素晴らしい。完結する連続ドラマだけ観たい。あと匂わせとオマージュのない映画が観たい。

このひとを傷つけるのはやめにしてゴーストバスターズに入りたい

1月27日(水)

歌会に向けて短歌を作る。題は「話」なので、この文字を必ず入れた短歌を提出する。最近は造語を入れる挑戦をしている。

烏賊釣りの夜に話した夢だからいずれ叶うよ きみはサンタニ



1月28日(木)

さば味噌煮を作る。フライパンに水と生姜と葱の青い部分、醤油、酒、はないからみりんで代用、を入れて煮立たせ、さばの切り身を入れる。煮汁を全体に回しかけて、というところでピンポーン。リフォーム会社のお兄さんだった。彼はいつもの眼力で、メラメラとこちらを見て言った。
「3月の予定でしたけど、2月からいけたりします?」
建物のリフォームのため3月に借りぐらしをする予定だったのだ。しかし2月って4日後からじゃん。つまり最短いつから行けるかということか。10日後でまとまる。

久しぶりの引っ越し、楽しみだな。うちは賃貸で、大家さんがぜんぶキレイにしてくれるんだ。引っ越しの間は家賃もいらないんだって。あっ、心配なのはWi-Fiだなあ。引っ越しが前倒しになるとオンラインイベントの司会に重なっちゃう。ポケットワイファイで行けるのかな。まあダメそうなら事務所におジャマするとして。

と考えているとLINEが鳴る。友だちが来るんだった。迎えに行くから待ってて〜と返信して、あ、さば味噌煮(惨敗)!

夕暮れの風に吹かれて初恋の人を忘れるイワン雷帝

1月29日(金)

原稿をもりもり書いたのち引越し準備。心を鬼にしてもりもり本を処分する。おまえたちのことは忘れないからな!

大昔の辞典に暮らすことだまを嵐の夜に荒野に放つ

1月30日(土)

引き続き引越し準備。断捨離なるものわれもしてみんとす。
10年分溜まった書類の間から、紙の端などに書きつけたひらめき、落書きがたくさん出てくる。どんなスキマ時間も無駄にしない意気込みを感じる。息をしている限り何か書いてやるぞ、という気迫。
10年前は子供もまだ小さく、自分の時間は取れても5分だったりした。5分でできるのは確かにメモぐらいだ。

ばかだなあ秒速30万キロのぼくがついてる今日は寝なさい



1月31日(日)

午前中はZoomで短歌の歌会。愛らしくて芯の強いKさんがしゃべる時がとても好き。話す内容と声が好きなのはもちろん、遠くでお湯を沸かしているような音がするのも好き。母方の祖母の家のやかんの音に似ている。手作りのおやつが焼けるいいにおいを思い出す。

結い上げた白髪に巻くスカーフにアーサー王と円卓の騎士

2月1日(月)

弟の誕生日。美少年だった彼も立派な中年だ。彼は立派な社会人であり新聞記者で、たとえばエニウェトク環礁に取材に行ったりする。広島の新聞社だからこそできる社会的意義の大きな立派な仕事だ。

しかし仕事に貴賤はない。こんな記事を書く私の仕事だって立派だ。ファイッ!

夜が明けて盗賊は息を吹き返す新しい人生の幕開け


親友のマスクマニアがマスクを語るYou Tubeもよろしく!

2月2日(火)

『スペイン語の入門』を夢中で読む。私のスペイン語はルチャリブレの動画で覚えたので、文法を知らないのだ。おまけに学生時代も不真面目だったので、たとえば「前置詞」が何か知らない。
だれだチミは。
検索したところいつも動詞と一緒にやってくるparaとかenとかだった。なんだ言ってよ〜昔からの知り合いじゃないの〜。きみがいなければ文章なんてただの単語の羅列さ。

そういえば英語の「過去分詞」って誰だっけ。検索したらいつものやつだった。なんだ〜言ってよ〜。

バイクに20年乗ってるけどプッシュロッドが何か、コンロッドが何か、いまだにわからない。検索もしない。そして何年か前からずっと「20年乗ってる」って言ってる。ファクトチェックによると26年です申し訳ありません。

雨雲に歌う無数の少女たち華奢な手を差し伸べる前置詞

2月3日(水)

『アメリカン・ゴッズ』のシーズン3が楽しい。
神々の話はアレンジが腕の見せどころ。この物語にはオーディンやアヌビス、シバなど様々な国の神々が現代人に姿を変えて登場するのに加え、車やパソコンや携帯電話の神も出てくる。ニール・ゲイマンの原作もそうだったがドラマはアレンジ盛り盛りで、先が読めない。

2で死んだレプラコーンが生き返る可能性はいかほどだろうか。彼はDeNAのパットンに似ているんだよ。

駆け引きに負けた投手は空を見たのち利き腕で冷蔵庫打つ



2月4日(木)

木曜日は週に1回は必ずやってくる。何があっても来るなんて律儀なやつだな。

にんげんはたやすく悪に染まるからあたしのチェリーパイ断末魔

2月5日(金)

借りぐらしの部屋を見に行く。
狭い。
思い描いていた計画はすべて破棄し、1ヶ月強のキャンプ計画に変更。やってやりますよ。

屋上の小部屋に暮らす夢でまた唾液の多いくちづけをする

2月6日(土)

部屋の掃除(両方)。J:COMからの連絡は来ない。部屋をぶっ壊すためいったん解約せねばならないのだが。解約は後回しなのか。でもいつも感じがいいから悪口はやめておくねハハハ。

錆色のユンボが二台向き合って立つT字路の横棒をゆく



2月7日(日)

10年分のすべてをダンボールに詰める。つもりだったがダンボールが足りずさまざまなものに詰める。あるいは捨てる。本だけで10箱。身軽に暮らしているつもりがこんなに物があったとは。思い出もいっぱいある。こういうの、もし村上春樹ならどう書くのか。

* * * * *

 ダンボールでいっぱいの部屋で、離婚したあとにつきあった男たちのことを考える。曲がりなりにも一時は本気で愛し合ったはずなのに、顔は思いだせなくなっていた。もちろんすべてを忘れてしまったわけではない。最初の男は標準よりもうんと背の高い、顔立ちのいい男だった。初めてセックスした夜は持参したコンドームのサイズが合わず、彼は痛がった。あるいは痛そうに見えただけかもしれない。別の男は、その場にいる全員が声を揃えてほめる意思の強さをもっていた。ただ、それはときに独善として現れたし、フェミニストを気取るミソジニストでもあった。それを告げると、パスタを茹でながら「またきみは誤解してるよ」と言った。私はあいまいに首を振り、なにか続けて言わないか待ったが、いつもなにも言わなかった。いずれにしても彼の考えは彼のものであり、私になにか言う権利はないのだろう。
 急になにもかもがいやになった気がして、横になって目をつむった。FMラジオから流れてきたカウント・ベイシーが、ひとりの男の顔を呼び覚ます。
 誰にでも忘れられない人はいる。あるいは忘れたくない人が。
 彼との関係は長続きしなかった。この星の時間でいえばほんの十日間ぐらいだ。手先が器用で、イタリアンレストランの紙ナプキンでバラの花を作ったりした。胸の毛は羊をたっぷり食べた野生のコヨーテのように柔らかく、隣で眠る夜にはそっとなでたものだった。
 ある夜、新しい靴にかかとを痛めつけられて「もう歩けない」と立ち止まったことがあった。彼は振り返り、すこし笑ってうなずいた。そしておもむろに近づいて私をかかえあげ、そのあと1キロほどの道のりをそのまま歩いたのだった。
 幹線道路を走る車のヘッドライトが、抱き合う二人の姿をアスファルトに映した。ぼくたちは声を上げて笑った。それからようやく運命ってやつに出会えたと思った。
 本当にそう思ったんだ。

この物語はフィクションです。


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