2019.11.5

バイクの何がいいって聞かれたら困るけど

 小学校入学前に仮面ライダーに出会って以来だから、バイクを好きになってずいぶん経つ。複数台持つ人もいるけれど、バイクへの入り口がヒーローの私にとってそれは「ヒーローの乗り物」なので、多くのヒーローと同じく私も1台しか持っていない。その1台に乗る私はつまりヒーローなのだフフフ。

 お察しの通り、夢と現実の境目があいまいな私ではあるが、虫も殺さない安全運転で厚木の河川敷に着いた。今回の「伊豆大回転RUN」の集合場所だ。

「ツーリングではなく飲み会」と主催者「マッケン」さんの言う通り、1泊2日でバイクで走って飲む秘密の結社と認識している。いつから始まったか聞いたがビールを飲んでいたので忘れてしまった。


 このマッケンさんは謎の多い芸能人のような人で「若い頃はファンクラブがあった」「伝説の海軍司令官の曾孫」「実はゲイ」「将来を誓った恋人がUFOにさらわれた」など多くの噂があり、おそらくいくつかは真実である。

 この日の厚木ではヴィンテージのモーターサイクルが集まる「VMRS」というイベントが開かれており、おしゃれな洋服ブースが軒を連ねおしゃれな人々が買い求めている。私は遠巻きに、ヒーローなものですから、服はそれほど多く必要ないものですから、という顔をしておく。その実は多くのオタクと同じく洋服屋に入るのに告白ほどの勇気が必要な性質で、それを察した人がくれる服を大切に着ている。自分で買い求めるのはズボン吊りなどです。



 ステージではバンドがイカした演奏をしている。よく見るとドラマーが「へリングス」さんだった。


 ヘリングスさんは伊豆大回転RUNの主要キャラの一人で、穏やかな人柄ながら爆音のトライアンフでぶっ飛ばす、板垣退助に似たイケメンだ。

 山梨からは「軟式」さんも来ていた。彼も伊豆大回転RUNの初期メンバーの一人だ。

 軟式さん(写真右。2018年撮影)は「夜の蝶との恋@キャバレー」をはじめとした数々の伝説を持つ男で、つい先日、死の淵から生還したばかり。しかし「いい葬式だったよ」とマッケンさんが言っていたので、霊だったのかもしれない。左は喪主の「まさし」。

 会場には「マボロシ」くん(類人猿)も来ており、ついこの間生まれた愛らしい子供を抱っこしていた。パンくんと名付けたそうである。

 今回の参加車両はいつもより少なめの7台。会場を出て海沿いの道を静岡県伊東市へ向かう。

 その様子は比較的行儀のいい湘南爆走族。途中で二人がはぐれたが(もちろん曲がり角を間違えた私のせいだけどスマン)無事に合流して宿へ。

 梅田という温泉民宿で、おそらく昔は伊東の小町などと呼ばれたかもしれない、呼ばれなかったかもしれないおばちゃんがやっている。普段は学生の合宿などを受け入れているそうで、1泊2食で7000円。安い。

 伊東小町は「うちは家庭料理だから」と謙遜されていたがキンメの煮付け、サンマ塩焼き、刺し身や生しらすなどの海の幸に加え、ご飯(おかわり自由)&餃子、煮物、おでんなど盛りだくさんで質・ボリュームともに豪勢な夕食。
 「隊長」からの差し入れのビールがバイクで走った体に沁みる。

 隊長、またの名を「キクラゲ先輩」(写真左)は、毎回お酒を差し入れてくれる酒屋の偉人。レースでは優勝してもしなくても担ぎ上げられて海に投げ込まれたりする。一重まぶたに見えて本当は二重の男。

 夜は宿の前のビーチに赴く。誰がなんと言おうと夜の海は素晴らしい。永遠を溶かしたように真っ黒だ。オバケのことは今は考えないでおく。ブーツは濡れたので脱いで、足首まで浸かった海水は11月でも思いのほか温かく、ザーッと力強く波が引くと足指の間の砂をさらさらと持っていかれる。その快感に何度も入ってしまう。写真は何度撮っても心霊写真になってしまう。

 ビーチに付き合ってくれたのは、いつも愛らしい「みゆき」ちゃん(後述)と、カメラマンの「kazzさん(通称photoさん)」。

 インスタ( @photo_rock)ではバイクのかっこいい写真やセクシーな女性の写真が見られます。時に「エロ入道」とも呼ばれることから察するに、苛烈なセクハラで知られるのかもしれない。

 そしてハーレーを駆る「ベーさん」。

 高校が好きすぎて6年間通った男であり、また少年時代、買ったばかりのバイクを燃やした男でもある。まじかよ。

 もうひとりは……おや?
 振り向くと一緒にいたはずの仲間が音もなく姿を消していた。海の亡霊にさらわれた、のではなく、部屋に戻って爆睡していた。半径2kmに届きそうな立派なイビキであった。

 さて、ズボンの裾を濡らした裸足の中年として宿に戻り、もう一度お風呂に入ろうとしたら「あら〜もうお湯抜いちゃったのよ」と伊東小町が部屋から声をかけてくれた。のだが、着替中だったらしくオッパイがポローンとなっていたので謝りつつエビの体勢でシュッと後退。

 翌日は、まずは「怪しい少年少女博物館」で思い出を発掘。強烈だったけどネタバレしないでおくね。ただ、お化け屋敷はまじコワなので気をつけること!!

 かわいらしい女の子たちに記念写真を撮ってもらう。

 そののち「山の中の秘湯」を堪能。

 お湯が熱くて気持ちよかった。温泉っていいな。


 早く帰って酒が飲みたい「ぶーちゃん」。私生活ではいろいろあるらしいが詳細は不明。

 いつの間にかちょー疲れている。しかし家に帰るまでが伊豆大回転RUN。東京を目指して足柄インターで集合したあとは修行みたいなもので、日も落ちて寒い中、無事に帰ることだけを目標にひたすら走る。グループLINEに一人ずつ帰宅報告が入る。

 もっとも走行距離が長いのは「みゆきちゃん」。

 ハーレーのハンドルにはお花がついていて、愛らしい笑顔(&巨乳)でどこかか弱い雰囲気を醸しながらも、最長距離を一人で走破してくる猛者である。今回は900kmだそう。ひれ伏して尊敬するほかない。

 そのみゆきちゃんの生存が確認できたところで、今回の伊豆大回転RUNも無事に終了した。

 今回もバイクで走る楽しさを改めて感じた。海沿いの空気は水分をたっぷり含んで体にまとわりつく。山の中では冷たい空気が急に襟元に吹き込む。曲がりくねった山道を走ると突然、視界が開け、木々の間から輝く海が見える。

 バイクで走って何が楽しいのか聞かれると困るけど、今のところ一番近いのは、走っている間にすごいスピードで考えたり感じたり気づいたりすること。悩み事も解決する。そうやって頭の中を駆け巡ったことは、バイクが止まると忘れてしまうのだけど、充実感だけは残っている。生きるって楽しいな、といった類の充足感。

 好きな人に会って話を聞くライターという仕事も「遊び」のようなもので楽しい。だけどそれは完成度を求められる遊び。その点、バイクで地球を走ることは完成度を求められない特別な遊びだ。

 マッケンさん忙しいのにいろいろ準備してくれて、誘ってくれてありがとう。今回もちょー楽しかった。また走りましょー!


 マッケンさんの超かっこいいバイク。ちなみにブロマイドのマルベル堂に行った時、視界の中にマッケンさんに似た人がいて、正体を突き止めたら沢田研二だった。


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