2019.4.9

明知真理子ルチャ専門家宣言

今年のはじめ、会場の隅からルチャ(メキシコのプロレス)の試合を観ていたところ、新聞記者に「ルチャの専門家ですか?」と聞かれた。ルチャの専門家!? 存在するのか!? そして必要なのか!?

「ルチャマニアの明知さん」としてラジオなどに呼ばれたことはあっても、専門家かと尋ねられたのは初めてで、2秒考えて「そのようなものです」と答えた。そして帰宅して沈思黙考したところ、ルチャに専門家は必要で、私はまさしくそれであった。

まず専門家とは、広辞苑を開くと「ある学問分野や事柄などを専門に研究・担当し、それに精通している人」とある。ルチャの大会パンフレットを何年も担当する私は、まさにこれだ。研究に欠かせないスペイン語も、試合実況のモノマネができる程度には習得した。

その専門家の役割だが、2種類あるのではないか。ひとつは「プロのための専門家」、もうひとつは「初心者のための専門家」。私は後者だ。

前者は、専門に学ぶ人に知識を提供する教授のような役割。キーング・オブ・キングスというか専門家オブ専門家ズだ。その知識を得るための対価は大学の学費の如く高額で、選ばれし者にだけ、極秘と言ってもいいぐらい秘密裏に受け継がれる。

何より基礎知識がないと呪文にしか聞こえない。名前からしてエル・サントの息子がエル・イホ・デル・サントで孫がニエト・デル・サントだし、アニベルサリオでマスカラ・コントラ・カベジェラだ。ガブリエル・ガルシア=マルケスの綴るアルレリャーノ・ブエンディーア一族も真っ青だ。

そしてルチャ界にこの専門家は多い。飽和と言ってもいいぐらいだ。しかし「初心者のための専門家」は、不在の状態ではないだろうか。


問題のエル・イホ・デル・サント(白)とフエルサ・ゲレーラ

シーンが盛り上がる過程では必ず「初心者のための専門家」が入り口の役割を果たす。メディアに出演して、初めてでも分かる情報を(無料か安価で)提供し、無知への寛容さを持ち、偏見に腹を立てず、丈夫な体を持ち、ほめられもせず、苦にもされず、そういう専門家に私はなりたい。

わけではないが、日本のルチャシーンを盛り上げるためには、誰かが引き受ける必要がある!

さてさて、ここからは「一般誌のライター」にこだわるオタクライターの挟持を聞くが良い。

約10年前にフリーになった時、専門誌に営業に行くか、一般誌の門戸を叩くか迷い、よりハードルの高そうな一般誌に挑戦した。それは、業界のしがらみに縛られずプロレスを伝えたいという愛からだ。

というラブの話をしようと思ったけどやーめた! 結果として月2500万PVのサイトで(ルチャファンには信じられない事実だが日本では無名の)カリスティコのインタビューはランキング1位を獲得した。しかもジャンル別ではなく全体ランキングでだ。これは快挙ですわよ奥様。

一般誌のライターとして修行し直した私は、初心者に伝えるための情報の取捨選択ができる。ここは私が「初心者のための専門家」を引き受けるのが、ルチャをたくさんの人に楽しんでもらうきっかけになるだろう。

そして5年後には今より多くの人がルチャに親しみ、その素晴らしさにより人々は癒やされ、仕事のやる気アップかつ売上アップで会社の人間関係が良好になり働きやすさ指数向上ジェンダーギャップも埋まり結果としてスバラしい国になっているはずだ。そうに違いない。きっとそうだ。だといいな。



そんな妄想で幸福感に包まれつつ先日も後楽園ホールに出向き、往年の名選手たちが見せるかっちょいいルチャを眺めたわけです。お友達とレモンサワーを飲みながら。酔ってわーわー言いながら。

やっぱルチャはいいね。


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