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2018.1.12


引きこもり読書日記

大人になったことを最も自覚するときは、時間が足りないなと思うとき。昔はちょっと頭が痛いふりをすれば学校を休んで読書ができたのに。フリーライターになった今、仮病で休むようになっては廃業だ。読書は贅沢な娯楽になった。

去年の夏から突き上げるような読書欲に悶絶していたので、この正月はほとんど誰にも会わず、読書三昧。芥川賞受賞作、ヤングアダルト、SF、ドキュメンタリーと、気になっていた本を一気に読み、幸せな冬季休暇だった。
本当は1冊ずつ丁寧にまとめたいけれど、今年の仕事はとっくに始まっている。ということで、頭の中にパンパンになっている感動と感想をここ吐き出して、今年もお仕事をがんばっていきたいと思いまーす。


『サラバ』(上・中・下)
西加奈子(著)/小学館文庫

ちょー面白い。3冊を1日で読んでしまった。爆笑と号泣の間を忙しく反復横跳びした気分。オチが素晴らしいので読後は多幸感に包まれる。
西加奈子の文章は燃えるようだ。昔のもそうだけどコレはもうボーボーメラメラで最高だ。買っておいた方がいい。
ハゲなどたいしたことじゃないのに、と言ったら男子にたしなめられました。


『サイモンvs人類平等化計画』
ベッキー・アルバータリ(著)三辺律子(訳)/岩波 STAMP BOOKS

サイモン最高かよ!!!
友達に囲まれ家族とも仲の良い16歳のサイモンは、多感な年頃だけあり悩みも多い。その1つがゲイだってこと。ノンケの男の子より1コ悩みが多いってことになる。
そのサイモンの相談相手は、顔も本名も知らないメール相手の”ブルー”。繊細で深い話が率直にできるブルーとは、何でも話せる間柄からだんだんと恋のような気持ちが生まれ…サイモンの恋模様も気になる話運びに加え、作者のフラットな視線が心地よくてちょーおすすめ。


『ロボット・イン・ザ・ガーデン』
デボラ・インストール(著)松原葉子(訳)/小学館文庫

このロボットの名はタング。かわいすぎる。AIの成長を見守ることは子育てに似ている。昨日まではできなかったことができるようになり、反抗期が来て、嘘をつくようになる。子育てに悩む人も読めばいい。
ロボットのかわいさにはいろいろある。動作性の不自由さ、健気さ、存在の哀しさ。列挙するとぞわっとするのは、自分の中の人間のおごりに気付かされるせい? ドストエフスキーの『罪と罰』的な感じで。
もとい、『ロデリック:(または若き機械の教育)』(ジョン・スラデック 著/柳下毅一郎 訳)の主人公ロデリックはかわいいロボット界の絶対王者(当社比)。


『犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』
コニー・ウィリス(著)大森望(訳)/早川書房

半分まで読んだがまだ乗れない。アプローチを間違えたようだ(※SFあるある)。出直します。

※SFって、ガジェット等のディテールを楽しむのか、構築されたハイファンタジー的な世界を楽しむのか、最初にどっちモードでいくか決めるよね? これディテールしっかり押さえてないと迷子になるやつだった!


『楽しい夜』
岸本佐知子 翻訳集/講談社

複数の作家の短編集。
私ってほぼ無傷で生きてきたんだな、と思った。子供も失っていないし、ガンで死にかけてもいない。素敵な人との恋のチャンスに気づかなかったこともない(ハズ)。と、生きる力がみなぎってくる。それで元気になった私はようやく、傷ついた友達のことを思い出し、私にできることがあるか考え始める。
どこか祈りを重ねてしまう作品が多かった。中でもルシア・ベルリンの短編「火事」は読むたび泣いてしまう。人間の本質を見つめた小説はそういうところあるよね。


『”少女神”第9号』
フランチェスカ・リア・ブロック(著)金原瑞人(訳)/理論社

短編集。共感の嵐に巻かれて大泣きしちゃうやつと、何が起きたのか分からないやつがある。性別も環境もさまざまな主人公たちは閉塞感を持ちつつ、そこから抜け出す希望も併せ持つ。赤ちゃんの、10代の女の子の、トランスジェンダーの、ゲイの、それぞれの気分を描く。読んでいると、世の中には複雑な気持ちがたくさん存在するので、私も自分の気持ちのままでいいやと安心できる。「ピクシーとポニー」は私の高校時代かと思った。
同じ作者の「ウィーツィ・バット」シリーズを読んだのは確か99年で私は23歳。その時はもう気分も”ヤングアダルト”じゃなかった。で、今はまたこういうの面白い。心がまた柔らかくなったのかもしれないと思うと嬉しい。


『死ぬには良い日だ オジブエ族の戦士と奇跡』
デニス・バンクス、リチャード・アードス(著)石川史江、越川威夫(訳)/三五館

アメリカ・インディアン・ムーブメントを設立したオジブエ族の運動家の話。
アメリカインディアンがここまで迫害されていたとは知らなかった。歴史は調べないと知ることはできないんだな。そして不屈のデニス・バンクスかっこいい。
ただ、彼の思想を理解できるかというと難しい。それが分かる時は、きっと自ら運動に身を投じる時なのだろう。

でも実はインディアンの名言とか読みたかったんだよね〜と友人に話したところ、興味があるという別の本を紹介してくれた。『今日は死ぬのにもってこいの日』。インディアンの哲学が味わえる詩と散文と絵の本。ああ、そっちと間違えたんだ。380P全部読んでも気づかなかったよハハハ。

でもね、その友達も、少女と老人の心の交流を暖かく描く映画『パピヨンの贈り物』と間違えて『パピヨン』を借り、鬼の形相で脱獄を繰り返すスティーブ・マックィーンを見続け、最後にようやく「これは違う映画だ」と気づいた人だから。独房で虫を食べ始めたあたりでさすがに気づきなさいよ。
という類友です。白に近い金髪で戸川純ばりに絶唱していた彼女ですが、今はボルダリングにハマっているそうです。


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