毎週月曜新聞 悪のロゴ
2016.7.18


あっぱれな人々

時々、生き方があっぱれな人に出会う。環境は必ずしも楽ではなさそうなのに、ストレートに生きてニコニコしている人。

先日、友人の音楽イベントに行き、いくつかバンドが出演した中に、絶対に売れないと断言できるバンドがいた。

全員超上手いのだが、速くてうるさくメロディは聞き取れず、音量が大きすぎて2度もアンプがダウンしていた。ハードコアとパンクが混ざったその曲調は20年前に最先端だったものだろう。しかし猛烈に感動した。時代の影響を受けないことも、それを続けるのも難しい。

ライブが終わり、外で夜風に当たっているとギタリストに話しかけられた。ギターを持っていなければハゲの酔っぱらいテンガロンハット付き。「俺なんか普通に歩いてたら逮捕されちゃうからさハハハ」と言っておられた。私がマリリン・モンローなら飛びついてキスするところだが、無名の中年のため辞退した。

ほとばしる生命力に圧倒され、単純な帰り道なのにバイクで迷った。この人にはいつかヒーローインタビューをしたい。

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お料理教室の取材に行った。異国の師のもとで世界の料理を学ぶ活発な中高年にコメントを求める中、「わたし、何でも新しいことに挑戦したいの!」とキラキラの目で話してくれた老婦人。上品な笑顔で「とってもおいしいからお味見なさって」とジェノベーゼソースを掌にポトリと垂らしてくれる。

もうすぐ80とのことだが仕事を休んで来たそうで、元気なうちはずっと働き続けたいのと仰っていたが、働かねばならない事情も察してしまう。「もう髪も真っ白になっちゃってお恥ずかしいわ」とピンクのギンガムチェックの三角巾を外すと、フランスの女優のようなショートカットで、とても80には見えないけれど、体の線は確かに細い。筋肉の落ちた細さ。

取材が終わったあと、その可憐な手で「お気をつけてね」とそっと触れた私の肩は、なんだかどんどん温かくなり、やがてその温もりは全身に伝わり指先からはみずみずしい蔓がくるくると伸び花が咲き、ということは起こらなかったが、私が瀬戸内寂聴ならありがたい言葉の一つでも差し上げたかった。深めにお辞儀をして失礼した。

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さて今日は友人が子供を連れて遊びに来た。その赤ちゃんが我が家に来るまでは実に長かった。

友人は黒のアイラインが似合うオジー・オズボーン一家にいそうな美人。人間椅子などを愛聴しプロのイラストレーターをしている。子供好きで、仲間の子供達を手懐ける手腕は素晴らしく、夫婦仲は良いのになぜかこれまで子供を持つ素振りはなかった。

しかしある日、子供をずっと欲しがっていたことを知り、戦いとも呼べる努力を続けてきたことを知った。私は「まあ気楽に構えときゃいつかできるって」などとちゃらんぽらんなことを言った。

そのあとは神とか仏とか信じてないくせに神社に行っては小銭を投げ、また小銭を出しては変な袋などを買い、しかもなんとなく渡せないなどという行動を繰り返していたら、子供ができたとメールが来た。

「まあ産まれるまで気楽に待とうや」などと返信しつつ、万が一の事故に怯えまた神社で小銭を投げた。不安な夜は彼女の名前を紙に書き色とりどりのハートや星やお花で飾り立て、謎の御札を作るなど不可解な行動をした。

そうこうするうちに「生まれたよ」というメールが来た。即座に誕生祝いの絵本を買ったが、またしても万が一の事故に怯え、渡さないという謎の行動に出た。自分でもなぜだかは分からないが、ゲン担ぎ的な思い込みだろう。

そうこうするうちに1年が経ち、その赤ちゃんはついに我が家にやってきたというわけ。太っても痩せてもいないちょうどいい女の子で、超絶可愛いのでぬいぐるみに埋めるなどしておいたが、何より友人が健康そうでニコニコし、うどんなどを豪快に与えているのが良かった。怯える私に比べ、なんとあっぱれなことだ。

長くなりましたが、そんなあっぱれな人々に顔向けできる私でいたいものです。


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