『クリード チャンプを継ぐ男』には 騙される価値がある
過去の自分が怖い。過去の自分がそれなりに頑張って成した中途半端な成果が人生の絶頂だったらと思うと絶望のあまり全裸でアイススケートに出掛けて収監されそうだ。たとえばそういうタイプの人はこの映画を見ればいい。
そうじゃなくてもあのロッキーだ。彼の魔法にならかかってもいいんじゃないか? ほら、騙されたと思って。
ロッキーのライバルだった伝説のボクサー・アポロの息子アドニスがチャンピオンを目指してロッキーに弟子入り。そのアドニスは我流でボクシングをしていてメキシコではそれなりの戦績があるが、まあ取るに足らない程度。そして親の偉業に追いつけないことに怯えている。
しかし魔法のようなチカラで乗り越える。時代遅れのロッキーの魔法で。「1打ずつ、1ラウンドずつだ」と、ほとんど騙されるようにして。
頑なに何かを信じるのは騙されることに似ているし、騙されるにも勇気がいる。
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アドニスは人生をかけて自分を信じるので、見ている方もついのせられて信じ始める。一緒に騙されてやろうと勇気を出してしまう。
育てのママとは絶対に和解できる。
恋人とは絶対に赤い糸で結ばれている。
ロッキーは絶対に死なない。
主人公を信じて映画を見ると、なんと安心感があるのだろう。そしてアドニスが今回はチャンピオンにならなかったところで、次は絶対になるだろうと信じてしまうのです。
最後の拍手は死闘を繰り広げたふたりのボクサーへのものだが、ここまで登場人物を信じた自分自身へも向けられているのではと錯覚してしまう。それほどに没頭できる映画。
とにかく、その魔法がかかった私は泣きながらシャドーボクシングの真似などしつつ、今の私だって過去を絶対に越えられるだろうという頑なな自己肯定感に包まれて、再生ボタンをもう一度押してしまうわけです。めでたしめでたし。
『クリード』は闇雲に自分を信じる無鉄砲な力を与えてくれる魔法のような作品。こんな楽園のような映画こそ、今の世に必要なのではないでしょうか!!このさつばつのせかいにこそ(シャドーボクシングしながら)!!
映像的に美しいシーンも多く音楽もいいので観てみて。ほら、騙されたと思って。
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